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 バッド・エデュケーション(原題:La Mala Educacion)。「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモドバル監督による2004年製作のスペイン映画。

 ゲイであることをカミングアウトしているといわれるアルモドバル監督の半自伝的な作品。舞台は1960年代、まだフランコの独裁政権は続いていた。抑圧的で鬱積した感情が胸苦しい。神学校での少年二人の友情と初恋、そしてあろうことか神父による性的虐待。彼らは成人した後に再会する。

 「オール・アバウト・マイ・マザー」、最新作の「ボルベール<帰郷>」の主人公はしたたかに生命力溢れた女性たちだ。男は登場するが、物語ではすぐに死んでしまい、その影はどこまでも薄い。
 勿論、この影の薄い男に何らかの意味があり、それと相対するようにアルモドバル監督の女性性、母性への偏りが描かれているのだが....。




 1960年代、ある神学校の寄宿舎で友情を育んだ二人の少年がいた。エンリケ(フェレ・マルチネス)とイグナシオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)。

 すでに時代は1980年代、そんな思い出を持つ二人の16年ぶりの再会から物語はスタートする。

 エンリケは若手の映画作家として成功をおさめている。ある日、エンリケのオフィスを一人の青年が訪ねてくる。あのイグナシオだった。彼の容貌が余りにも変わってしまっているのにエンリケは戸惑っている。

 イグナシオは俳優だと自称した。彼は自分達の少年時代の物語を脚本にし、エンリケが監督する映画でその主人公を演じたいと伝える。それは、少年時代に神父から受けた性的虐待を告発する自伝的なも内容だった。

 果たして、目の前に立っているイグナシオは、かつての彼なのか。脚本を完成させるため、エンリケは結果としてイグナシオの軌跡を辿っていくことになる。

 この映画は複雑な構造をしている。少年時代の回想、青年となった現在の二人のゲイとしての交流、書き綴られるフィクションとしての脚本(物語)。脚本はこの映画中で演じられるもう一本の映画のように重層し、一人歩きし、現実とフィクションが混在してくる。

 過去と現在、現実と虚構、愛と憎み、反発と誘惑、そして性と死。やがてイグナシオの現実の物語は、脚本を越えて衝撃的な真実を明らかにする。




 イグナシオは、何故、エンリケの前に姿を現したのか。少年期、性的虐待をしたものたちに対して復讐するために脚本を成立させ、映画化を目論んだと語る。

 映画の中で、少年たちが神父の前で歌を歌うシーンがある。美しいコーラス。少年たちは誰も美しい。一方で、少年を権威で抑圧し、建前を押しつけるのは神父たちだ。そして、その権威の背景には、政治と宗教の蜜月を演出したフランコ政権が厳然と存在していた。

 イグナシオは、復讐を共有するためだけにエンリケの前に登場したのだろうか。それは少しばかり違うように思う。かつての少年時代に二人が育んだ友情の生き末を確認するために現れたのではないか。

 同性愛者ではないので、その実際は知らない。一方で、少年期を振り返ると、あれは同性愛的な資質だったのではないかと思い出すことはある。

 家には帰らず、仲のいい友人の下宿に寝泊まりしていた日々。言葉として何も発さなくとも、お互いに分かり合えているような感覚。彼のことは自分だけが理解しており、彼だけが自分を理解してくれているような感覚。

 タブーなのか、語るものはないが、きっとかつての旧制高校の寮生活の中でも、そんな雰囲気はあったはずだ。そんな感覚の相手は、決して女性のかわりではない。敢えていうならば、性を越えたような、むき出しの個としての関係。それが肉体的な接触に向かうまでには大きな境界線があるだろうが....。

 アルモドバル監督の作品には原色が登場する。本作でも「赤」が際だっている。スペインの土着的な色彩。旅人として数日間の滞在では、その土着性はとても理解できなかった。ヨーロッパであるのに、イスラムや南米まで通底しているような風土。それが本作でも色鮮やかに表現されていた。


監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス、ダニエル・ヒメネス・カチョ、ハビエル・カマラ、ルイス・オマール、レオノーラ・ワトリングほか
2004年3月/スペイン /カラー/106分
配給/ギャガ・コミュニケーションズ
公式ホームページ

(C)ギャガ・コミュニケーションズ


2007.05.02掲載
クイーン(THE QUEEN)
フリーダム・ライターズ(Freedom Writers)





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