米国では著名な地方新聞の廃刊が相次いでいる。背景には、インターネット状況下、有効な課金方法と、それに基づく収益源確保のビジネスモデルが確立できないとの危機的な事態がある。
新聞などの既存メディアもポータルサイトを構築し、デジタル化したコンテンツの提供は行っているが、購読料収入には結びついていない。その間、グーグルなどの検索サイトは、新聞記事などを検索対象として再利用している。それに怒ったのがニューズ・コーポレーションの総帥、ルパート・マードック氏だ。
彼は「グーグルは記事を盗んでいる」と挑発した。これまでも多くの企業買収などで名をはせた彼のことだから、その挑発の背後で、着々と手も打っている。ここ一連のグーグル×マードック論争の経過を踏まえ、米国での既存メディアの生き残り戦略について考えてみた。
『米ニューズがグーグルへの記事不掲載でMSと提携模索して対抗策(11月23日・英紙フィナンシャル・タイムズ発)』
マードック氏の「グーグルは記事を盗んでいる」との主張には、挑発的なだけでなく、新聞記事=コンテンツの制作編集にコストがかかる立場からすると、理解できる面もある。特に調査報道などには膨大なコストがかかるからだ。
そこで、新聞社も自らもコンテンツ主体のポータルサイト化を目指し、広告収入を得る手法をとり、同時に検索サイトでのコンテンツ再利用を許し、そこからやってくる読者=閲覧者の増加に期待した。ポータル化戦略では、とてもグーグルには対抗できず、グーグルはその間隙をぬい、相変わらず新聞などのコンテンツを検索対象としていた。
そこでニューズ・コーポレーションは、グーグルに対抗する検索サービス「Bing(ビング)」を提供する米ソフトウエアマイクロソフとの提携を模索し、料金を支払ってニューズ系の記事を配信する仕組み作りにチャレンジするとのことだ。
『グーグルが無料閲覧できるニュース記事本数を制限(12月2日・AFP発)』
グーグルもすぐに対抗措置?を打ち出した。それは同社の検索エンジンを経由して無料で閲覧できる新聞社などの記事の本数に制限を設けるという手法だ。具体的には、同社の「First
Click Free」プログラムに参加する新聞社などで無料閲覧できる記事を5本以内にするもので、更に新聞社などの側で制限を設けることができるようにする。また、6本目をクリックすると、新聞社側のサインアップページや購読申し込みのページが表示される配慮もする。
一見すると、マードック氏の主張を認めたようたが、既存メディアに救いの手を差し伸べる方法で、自らの立場を更に強化したわけだ。インターネットの閲覧者は、多くの場合、グーグル(などの検索・ポータルサイト)から閲覧を始めるし、この手法では、既存メディアのサイトもあくまでも一部のグーグル(経由)のコンテンツと同等とも考えるからだ。ここでも結果的にグーグルの優位性は確保されている。グーグルはいぜんとして軒下は貸しても、しっかりと母屋は確保している。
一方で、この状態は一種の過渡期と考えられる。既存メディアは、その過渡期の猶予期間を最大限の活用して、コンテンツ有料化へのチャレンジを続けるべきだろう。
『マードック氏とハフィントン氏が「ニュースは無料か有料か」で論争(12月2日・AFP発)
そんな状況下、マードックは、新聞業界の生き残り策として、政府支援策を求めるのではなく、ネット上のニュースの有料化を購読者に納得させるべきだとの考えを示した。それに対して、政治関連ニュース・ブログサイト「ハフィントン・ポストの共同創設者、アリアナ・ハフィントン編集長は、マードック氏や米紙出版社が「デジタル時代を拒絶」していると批判し、「泣き言はそろそろやめましょう」と語りかけた。
マードック氏の述べた「信頼できる高品質なニュースと情報は、無料で手に入るものではない。そのことを消費者に納得させるためにも、われわれがもっとしっかりとした仕事をしなければならない」との見解は、正しい。
一方で、ハフィントン氏は「コンテンツ無料化に全く問題がないわけではない」「しかし、その流れは定着しているのだし、出版社はそろそろあきらめて、その中でうまくいく方法を考えるしかないのです」の見解も当を得ている。
課題は、この狭間で、ユーザー=読者が果たしてコンテンツ有料化を納得するかだ。最も重要なポイントは、料金を支払っても閲覧する価値のあるニュースとは何かということだ。そして、そのような価値あるニュースを既存メディアが継続的に提供できるかだ。
デジタル化された情報は、容易に、繰り返し、再利用でき、従来の紙媒体のようにコストもかからない。そのメリットは、供給側もユーザー側も甘受している。その際に、最も考慮すべきは、オリジナル情報の大切さであり、その質を保つためには、当初コストがかかることだ。音源などのコンテンツでは、有料化の手法が著作権の確保と共に実現している。情報のデジタル化と共に既存メディア=新聞上のコンテンツの著作権との関わりも、今後、議論されるべきだろう。
『雑誌などの定期刊行物にも適用範囲が拡がるブックリーダー(12月5日・AFP発)
米メディア大手ハーストは雑誌・新聞用のオンライン販売サービスと電子書籍リーダー、そして新たな広告サービスを組み合わせる新プラットホーム「Skiff」を2010年に開始すると発表した。
これまでアマゾン・ドット・コムの人気機種「キンドル」などのブックリーダーは書籍を読む目的で作られており、雑誌や新聞の広告を表示できなかったが、このSkiffでは新聞や雑誌の記事と一緒に広告を表示できる。加えて、モノクロ表示だけの不満解消のため、2010年内にはカラー表示機器発売の予定も囁かれている。
グーグルはただで記事を盗んでいると泣き言をいっていても仕方ない。ブックリーダーという表現形式を知った時、これは既存メディア生き残りの突破口となるのではと思ったが、いよいよ米国では、出版・新聞企業連合「デジタルニューススタンド」の立ち上げで既存メディアの逆襲が始まったのではないだろうか。
ブックリーダーは、これまでの「読む」という行為を踏襲し、読者の親和性が高い。またすでに雑誌や新聞の製作過程はデジタル化されており、それをブックリーダー用のコンテンツに再利用するのも容易だろう。
次に考えられるのは、「紙」メディア=雑誌や新聞と「デジタル」メディア=ブックリーダーとの機能面+企画面での融合だ。それによって「紙」メディアの優位性も再認識される可能性もある。また、従前通り、検索サイトへは、そのままコンテンツを提供しても良い。コンテンツを制作し、発信する大元が経済的にも成り立つ仕組みを確保することが何よりも大切だから、この施策は、注目に値する。
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