キース・ジャレット(Keith Jarrett)がソロコンサートでやってくる。バッハを演奏するなどクラシックにも造詣の深いジャズピアニスト。

　彼のキャリアは1960年代、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズへの参加から始まる。やがて電子音楽を積極的に取り込み始めたマイルス・デイヴィス・グループに1970年に参加、同じくジャズ・ピアニストとして著名なチック・コリアとのツイン・キーボードが注目を集めた。




　1971年、ヨーロッパの新興レーベルECMと関係を深め、即興によるピアノ・ソロコンサートを始める。インタビューを読んだ記憶があるが、彼はマイルスの電子音楽への指向に違和感をもったようだ。その反動だったのだろうか、クラシカルな色彩も強いピアノ・ソロへと傾斜し、数多くのコンサートを行っている。

　その中でも評価が高く、多くのファンを獲得したのが「ザ・ケルン・コンサート」である。このコンサートは1975年1月24日、ドイツ・ケルンのオペラ劇場で行われた。

　一切、楽譜のない完全な即興演奏。次々と新たな曲想に誘われて演奏は一瞬の停滞もなく、心地よい緊張感の中で進んでいく。この演奏を聴くと、必ずその中に、これはというメロディー・ラインが見つかるはずだ。中盤からはよりリズムがはっはりとした演奏となり、足で床を踏みならし、うなり声のようなものも聞こえてくる。

　この演奏などを通じて、彼はソロピアノで独自の世界を築いていく。演奏の一部分は多くのコマーシャルやドラマでも使用されている。よく知られているのはニコラス・ローグ監督の映画「ジェラシー」だ。

「ザ・ケルン・コンサート」
(1)ケルン・1975年1月24日(パート1)
(2)ケルン・1975年1月24日(パート2a)
(3)ケルン・1975年1月24日(パート2b)
(4)ケルン・1975年1月24日(パート2c)




　ピアノ、ドラムス、ベースというジャズにおいて最もポピュラーな演奏形態での活動も続けている。現在、キース・ジャレット・トリオとして活動しているのはゲイリー・ピーコック(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)。彼らは共に優れたジャズ・プレーヤーとして知られている。

　このトリオが結成されたのは1983年。初期のようなダイナミズムは徐々に影をひそめているが、すでに四半世紀近くを経て、彼らの演奏はより叙情性を高め、熟成に向かっている。

　トリオ活動と平行して、1980年代後半からはバッハやヘンデルなどのバロック音楽、モーツァルト、ショスタコーヴィチといつた作品も取り上げ、演奏している。
　演奏に使用する楽器も、再現性を重視しているのか、ピアノではなく、ハープシコードやクラヴィコードを使用している。

　ソロコンサートの完全な即興性の対極にあるクラシックの楽曲。同じバッハの楽曲でも、その時々によって演奏は微妙に変化している。決められた楽譜の中に、いかにして感性としての即興性を表現するのかがテーマなのだろうか。




　キース・ジャレット・トリオとしてのお奨めの第一弾は「TOKYO '96」。1996年3月30日、東京での演奏。

　演奏はモナ・リザ、枯葉などもよく知られているジャズのスタンダード曲。ここでも、ソロコンサートで垣間見られる自由な曲想へのアプローチが心地よく、ジャズの真髄である即興性がゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットとの間で発揮されている。

「TOKYO'96」
(1)イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
(2)ネヴァー・レット・ミー・ゴー
(3)ビリーズ・バウンス
(4)サマー・ナイト
(5)四月の想い出
(6)モナ・リザ
(7)枯葉
(8)ラスト・ナイト・ホエン・ウィ・ワー・ヤング・カリビアン・スカイ
(9)ジョンズ・アビー
(10)マイ・ファニー・ヴァレンタイン

　次のお奨めは「星影のステラ」。表題曲の星影のステラは数多くのプレーヤーが好んで演奏している楽曲。

　このトリオは、原曲のもつ叙情性をいかしながら、硬質で透明感溢れる演奏を展開している。できれば他のプレーヤーの演奏と聴き比べるとよいだろう。このトリオの演奏だと、他のスタンダード曲を聴いてもすぐに気がつくほど、独特のテイストを醸し出している。

「星影のステラ」
(1)星影のステラ
(2)ザ・ロング・ブルース
(3)恋に恋して
(4)トゥー・ヤング・トゥ・ゴー・ステディ
(5)今宵の君は
(6)オールド・カントリー

キース・ジャレット・ソロコンサート