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 世代も出自も異なる二人のジャズピアニスト。上原ひろみとチック・コリア。4月30日に武道館が行われるコンサートのチケットを買った。武道館でジャズ。もっと小さなホールの方が嬉しいが、久し振りに二人のピアノが聴ける。




 上原ひろみ。1979年3月26日、静岡生まれ。彼女を知ったのは2003年10月19日にTBS系で放映された「情熱大陸」だった。バークリー音楽大学に留学にし、ボストンに在住していた彼女に密着取材。日本ではまだ無名だった彼女。ドラムスとベース奏者を自ら見つけ、トリオを組んでニューヨーク、ヨーロッパとツアーするドキュメンタリー風の番組だった。インターネットで検索、11月に国内デビューのコンサートがあるのを知り、予約した。

 11月27日、セルリアンタワー東急ホテルの「JZ Brat」。このクラブはできたばかりで初めてだった。席に座るとピアノまでは15mほど。周りを見ると、若い人が多かった。彼女が登場、小柄な、どこにでもいそうな女の子。リリカルな情感を内に秘めながらも、どこからこんなパワーがでてくるのかという疾走感溢れる演奏に惹かれた。

 デビューアルバム「アナザー・マインド」を手に入れた。ライブ版ではないようだが、あのエネルギッシュな演奏は、そこでも再現されていた。
 テレビ番組に登場すれはすぐに名前は知られる。もっと前に知っていれば、このアーティストは自分だけが知っているという自己満足感が味わえるが、そんな時間もないまま、国内の情報番組にたびたび出演し、コマーシャルにも登場、一挙に有名になった。

 彼女に惹かれたのは、その演奏だけではない。何故、ジャズを選んだのかも不思議だったし、アメリカに一人で渡り、共演者を募り、演奏できる場所も探す。ニューヨークのジャズシーンは生き馬の目を抜くような処。そんな厳しい世界にたった一人で立ち向かっている。新しい世代も生まれているのだという驚きと羨ましさもあった。

1. XYZ
2.ダブル・パーソナリティー
3.サマー・レイン
4.ジョイ
5.010101(バイナリー・システム)
6.トゥルース・アンド・ライズ
7.ダンサンド・ノ・パライーゾ
8.アナザー・マインド
9.トムとジェリー
※〈CD/SA-CDハイブリッド仕様〉




 チック・コリア(Chick Corea)。1941年6月12日、マサチューセッツ生まれ。彼の演奏とは長い付き合いとなった。最初に彼を知ったのは1968年、前任者のハービー・ハンコックに代わりマイルス・デイヴィスのグループに参加した頃だった。
 マイルスの名アルバムとして知られる「イン・ア・サイレント・ウェイ」や「ビッチェズ・ブリュー」などのアルバムに参加し、頭角を現していく。当時、マイルスは電子音楽への傾倒を深めていた。チック・コリア自身はアコースティックへの指向が強いアーティストだが、それ以降、マイルスの実験的な芸術的表現には欠かせない一員なっていく。

 マイルスとの活動が原動力となったと考えられるが、1971年、超絶的な技巧をもつベーシストのスタンリー・クラークなどとアルバム「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を発表する。60年代はロックの時代だった。70年代に入っても、その余韻は残っており、多くのアーティストが電子音楽へと向かった時代。このアルバムはとクロス・オーバー/フュージョンと呼ばれる音楽の金字塔となる。

 その後、彼はアコースティック、スタンダードに拘るアルバムを数多く出している。チック・コリア・アコースティック・バンド。この時期から再び、彼のアルバムをよく聴くようになった。

 彼の出自を知ると、ライン系の血をひいている。5月に来日するキース・ジャレット(Keith Jarrett)も好きなアーティストだが、同じピアニストでもアルバムを聴き比べると、彼の出自もよくわかる。キース・ジャレットもクラシックへの造詣が深く、ソロアルバムも多いが、その演奏はしっかりと構造的で、インプロビゼーションでの逸脱も幅が狭いように感じられる。
 一方、チック・コリアはより奔放で、よく知られたスタンダードを演奏しても、どこかにラテン的な色彩が感じられる。

 最近、手に入れたのがチック・コリアの「The Boston Three Party( ワルツ・フォー・デビイ~ビル・エヴァンスに捧ぐ )」。ビル・エヴァンスへのトリビュート作品で、2006年ボストンでのライヴ演奏。

 本誌でも「こんなふうにピアノが弾けたらもう何もいらない」と題してビル・エヴァンスを紹介した。エヴァンスの代表作「ワルツ・フォー・デビイ」。聴き比べると、同じ曲なのに、演奏者が違うと、ここまで異なるのかと驚かされる。

 基調となるメロディーラインを瞬時に解釈し、共演者とのインプロビゼーションを展開する中で、新たな曲想を加えていく。ジャズという音楽の深さと豊穣さがよくわかる。チック・コリアの「ワルツ・フォー・デビイ」はエヴァンスへのリスベクトも持ちつつ、彼独特のものとなっていて、こちらもとてもよい。

1.WITH A SONG IN MY HEART ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート
2.500 MILES HIGH 500マイルズ・ハイ
3.WALTZ FOR DEBBY ワルツ・フォー・デビイ
4.DESAFINADO (INTRO)デサフィナード(イントロ)
5.DESAFINADO
6.SWEET AND LOVELY スウィート・アンド・ラヴリー
7.SOMETIME AGO-LA FIESTA INTRO
8.サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ(イントロ
9.サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ パート1
10.サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ パート2




 上原ひろみとチック・コリアに戻ろう。上原ひろみは浜松市出身。ヤマハの地元。6歳からヤマハ音楽教室に通い、ピアノ教師の家のジャズアルバムを聴いたのがジャズとの出会い。小学生時代のアイドルがオスカー・ピーターソン、エロル・ガーナーといったジャズピアノの巨匠たちだったというから、少し変わった女の子だったのかもしれない。

 チック・コリアとは16歳の時に出会っている。来日コンサートのリハーサル中、彼からピアノを弾くようすすめられ、その場で演奏する。その度胸にも驚くが、彼はすぐに才能を見抜いた。すでに伝説となったが、コンサートツアーの最終日に、二人は舞台上で共演している。
 ヤマハから留学奨学支援を受けて20歳でバークリー音楽大学に留学する。デ在学中に大手のレコード会社テラークレーベルと契約し、全米デビュー。音楽院を首席で卒業し、先に述べた国内デビューを迎える。

 二人はチック・コリアの来日時などにたびたび共演している。手元にあるのは2007年9月24、26日にブルーノート東京で行われた共演ライブ「Duet」。ジャズ・スタンダードだけでなく、ビートルズの楽曲も演奏するど、遊び心溢れるライブが楽しい。

CD1
1.ヴェリー・アーリー(ビル・エヴァンス)
2.ハウ・インセンシティヴ(A.C.・ジョビン他)
3.デジャヴ(上原ひろみ)
4.フール・オン・ザ・ヒル(ジョン・レノン/ポール・マッカートニー
5.ハンプティ・ダンプティ(チック・コリア)
6. ボリヴァー・ブルース(セロニアス・モンク)
CD2
1.ウィンドウズ(チック・コリア)
2.古城、川のほとり、深い森の中(上原ひろみ)
3.サマータイム(G.&I.ガーシュウィン他)
4.PLACE TO BE(上原ひろみ)
5.ドーモ(チルドレンズ・ソング #12)(チック・コリア)
6. スペイン(チック・コリア)

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