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 この施工現場には連続して通い詰めた。雑談の中で、「現場所長の評価はどのように行われるのですか」と聞いてみた。「この現場は大して利益率がよくないので、完成しても数字的な評価は高くない」と所長は笑いながら答えた。

 「CADシステム以外に最も役に立っているOA機器はなんですか」とも聞いた。すると所長は「気象FAX」と答えた。ナマコン車の手配は天候に左右される。「利益率が低い現場では、ナマコン車の手配はいつもドキドキものだ」とのことだった。急に天候が変わり、雨降りで生コンの手配が無駄になれば、その損失はかなりのものとなるからだ。

 夕方になり、引き上げる準備をしていると、「今晩はいっぱい飲むので来ませんか」と誘われた。所長は、まだ話したりなかったようなので、同行することにした。そこは、施工現場のすぐ隣にあるスナックだった。若手社員が小さな声でいうには、「近隣対策」とのことだった。




 「利益率があらかじめ低い現場が当たるというのは不公平なのでは」と、所長に聞くと、彼は「仲間の所長とは個別調整」とも話した。

 建設業の実態は、施工現場を訪ねないとわからないと思った。ゼネコンは一種の金融商社のようなもので、個々の施工現場が最も重要な生産拠点。本社・支店はある種の管理部門であり、施工現場の現状を明確にはつかみきっていない。

 施工現場は一種、独立した個々の企業のような側面もあった。施工現場の実態をいかに正確に捉えるのか。支店など管理部門との間には、せめぎ合いも見られたが、ある程度、所長の裁量に任せないと円滑な施工が行われない面もあった。このバランスが難しい。そして、最も重要な生産拠点は転々と移動する。この点も他の製造業と一線を画する建築のユニークのところだ。

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