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 いよいよ上海万博が開幕した。世界中から錚々たる面々が集まり、開幕式に参列していた。フランスのサルコジ大統領夫人のカーラ夫人の美しさが目を引いた。近くにはあのアラン・ドロンが寄り添うように歩いていた。何故、彼がそこにいるのか。体制の違いはあるものの権力の蜜の味には誰もが吸い寄せられる。サルコジは二人に少し心配気な視線を送っていた。
 日本からは仙石国家戦略担当大臣が参列していたが、勢い良く掲揚される五星紅旗を見ている表情がどこか固く、渋かったのが印象的だった。あの勢いを間近にすると、翻って益々、混迷を深める国内政局に思いをはせざるを得なかったのだろう。

 開幕前のリハーサルではルールを守らず、行列を無視したり、中国館の入り口に殺到する人々の姿が西側メディアで報道され、果たして無事、万博を運営できるのかとことさらネガティブな論説もあった。テーマソングの盗作疑惑に至っては、国内でもまたかとの論調であった。
 それでも中国の政治権力は、オリンピックがそうであったように、なりふり構わず、成功裡に万博を終わせらせるべくあらゆる方策をとるだろう。この万博は、国外向けであると共に、経済格差などの国内矛盾から一刻、目をそらせるための国内向けのイベントでもあるからだ。万博という目標に向けて疾走している内はよいだろう。オリンピック、そして万博が終わり、その後、何が起こるのか。彼ら政治権力は固唾を飲んで今後の情勢を見守ることになる。

 そんな中国を巡ってNHKのクローズアップ現代が「シリーズ 中国・転換の時」という特集を組んでいた。中でも4月26日(月)の「社会を変えるか“新人類”」が印象深かった。
 天安門事件から傷を受けることもなく、かつての貧しさも知らず、1980年代に生まれ、改革開放政策の中で一人っ子として育った世代。彼らは80后=バーリンホウと呼ばれ、その人口は21歳〜30際で2億人に及ぶという。そのバーリンホウのカリスマとして、カーレーサーであり、作家でもある韓寒という人物がインタビューに応じていた。

 彼はネット上で現在の政治権力に批判的な意見も公開しており、ブログのアクセスは3億5,000万に登るという。それにも関わらず、何故、政治権力から追求はされないのか。国谷キャスターの質問への答えが実に興味深いものだった。その主旨をまとめてみよう

・ブログは公衆便所のようなもの。自分の意見を読んでうっぷんを晴らしているだけだ。それで生活が大きく変わるのではないが、それでもトイレに行かなければ人は死んでしまう。といって街中であたりかまわず用を足されたら困ると冷静な判断をしていた。
・また現実に行動(デモという言葉を使い)を起こせば、すぐにでも当局から拘束されるとの認識も語った。
・格差が広がっていることも理解している。経済発展と共に、中国はより政治的、文化的に自由な国になるかというと、そうは考えていない。
・それはメディアのほとんど全てが現在の政治権力のコントロール下にあり、外部から、彼らを批判する社会システムがないからだ。政治権力は事実上、誰からも監視されていない。
・私たち世代の多くは、ネットを通して世界情勢への知識もあるし、決して孤立してはいない。だから変な思想にも騙されないし、踊らされることもない。

 見事なまでの正確な現状認識とあまりの冷静さに驚かされたが、一方で、それだけ強い緊張を強いられているに違いない。

 目に見える示威行為は当局も恐ろしくないはずだ。政治権力が最も恐れるべきは彼らなのではないか。何故ならば、彼らのエネルギーは深く静かに潜行しており、内部から中国社会を良い意味で侵食していく可能性を秘めているからだ。

 彼はこうも語った。天安門世代は今では既得権益を持ち、すでに権力に取り込まれている。私たちの世代は権力との一定の距離を常に保っているので、今、抱えている心情は決して変わらないと...。

 四川大地震の時には、中国国内から彼ら世代がボランティアとして多数、参集したという。彼らは明らかに今までとは質の違う社会的な関心ももっており、いざというとネットを通じて、ボランティアを一種の隠れ蓑にして集合できる。それを「被災者の救援という名のもとで堂々と行動を起こすよいきっかけになったともいえる」と表現していた。

 間もなく、現在、政治権力を担っている政治家の面々は退場する。そして次の次の世代も政治権力の中で育っている。願わくば、きっと心情的に近いものがあるに違いないバーリンホウと次の次の政治権力を担う世代との間で妥協点を見出し、巨大な中国社会を軟着陸に導いて欲しい。それは、今後、10年程のスパンで起こりうるに違いない。そして、この国は10年間を経て、どんな姿となっているのだろうか。そちらの方も切迫した課題だ。

 彼の発言の全文は以下で読むことができる。

・クローズアップ現代「シリーズ 中国・転換の時 第1回
 社会を変えるか“新人類”」

 
[2010.05.01]

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