top pageothers>08.12_Vol01













 毎日、新聞を読み、テレビを観るのが辛いほど、暗いニュースばかりだ。世界的な金融危機。一介の編集者には、いったい何が起こっているのかはよくわからない。

 それでも休日にスーパーに買い出しに行けば、明らかに安値誘導で消費者を引きつけようとしているし、こちら側も自然に「いつでも冷凍食品40%引き」といった売り場に足が向かったりする。年金生活者と思える老人たちのカゴには「30%引き」の干物や総菜が入っている。2009年。誰にとっても厳しい年となる。

 非正規労働者、派遣社員の前倒し契約解除、学生たちへの内定取り消しが広がっている。政府は大企業のトップを集めて、雇用問題が政治問題化しているので、雇用確保に勤めて欲しいと要請しても、彼らは聞く耳を持たない。この危機を協力して乗り切る方法はないのだろうか。

 NHKの「英語でしゃべらナイト」にソニーのストリンガー会長が登場していた。世界規模で16,000人の雇用調整(といういい方)が発表される前のことだ。その際に、ストリンガー会長はとてもうまい比喩で企業と従業員との関係を語った。

 「船が順調に航行している時、船長は乗員のことを考える。船が氷山に衝突した時、船長は船のことを考える」との主旨だったと記憶している。そしてソニーは氷山に衝突したようだ。

 ソニーのような家電・エレクトロニクス業界、自動車業界は、バラツキはあるものの、少し前まで最高益を記録していた。このような事態を迎えると、一転して雇用調整に踏み切る。業績が順調に推移していた時期、賃上げを求める声には、グローバル化、企業体質強化に対応するためと、応えることはなかった。あの最高益はどこにいってしまったのだろうか。

 ストリンガー会長は、その文脈の中では語る必要がなかったのだろうが、航行している船の比喩には、もうひとつ重要なファクターがある。それは、船が浮かんでいる「海=市場=消費者」のことだ。

 すでにGDPの過半は消費が占めている。政府・自民党の中からは、危機的な状況だから、小泉政権下で決定した財政規律優先策を解除し、再び、公共工事を増やすべきだとの声も聞こえるが、それは間違いだろう。このような時期だからこそ、GDPの過半を占めている消費、内需を刺激するため、企業は内部留保の全てを使ってでも、雇用を確保し、賃上げを実施すべきだ。

 東京と共に、地方交付税に頼る必要がないほど、豊かな財政を誇っていた愛知県の知事が陳情に訪れたシーンが放映された。愛知県の財政の多くはトヨタによって支えられていたが、この危機によって、7,000億円もの税収減が予想され、それは愛知県の税収の25%の及ぶという。このような事態は、他の地方行政府にも広がりを見せている。

 いまだ実現しない行政のスリム化を緊急に実施、税金の使い道を透明化し、住民へのセーフティネットを充実するとの前提があるが、ここでもGDPの過半を消費が占める現状を受けて、地方消費税のようなものも必要なのではないか。

 この状況を乗り切るため、ひとつのヒントとなるかもしれない動きが北海道の興部町という小さな町から聞こえてきた。「北海道興部町が生活支援に1万円商品券を配布」。評判はよくない政府の定額給付金。それでも「もらえればもらえる」との声もあるにも関わらず、いつ実施されるかもわからない。それを待ってはいられないと、興部町は考えたに違いない。

 町内の商店などでの使用に限定するので、「1万円×配布数」だけの金は町内を流通する。これは一種の地域通貨を興部町を発行するようなもの。ささやかな取組だが、内実はかなりラジカルな施策だ。紙幣を印刷し、流通させる権限を唯一もっている中央政府への異議申し立てとも考えられる。

 問題がないわけではないだろう。あくまでも緊急措置であり、閉じているからだ。それでも、そこまで追いつめられているわけだ。

 船は乗員(従業員)を乗せ、海(市場=消費者)の上を航行している。普段は見えないし、海の上の生活で完結していると思っても、いつかは陸地(行政府)に着き、乗員を降ろし、荷揚げもしなければならない。比喩的に語られた船と乗員との関係、海の航行の仕方、そして陸地へは何を荷下ろしするのかなどなど、全てが問われている。

[2008.12.11]

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