top pageothers>08.07_Vol01













  どちらかというと保守的であり、自民党擁護の論調も目立つ産経新聞をニュースソースとしているフジテレビ。それでも、調査報道への試行錯誤も感じられ、ちょっと頑張っているなと期待していたのがフジテレビ系情報番組「サキヨミ」だった。
 民主党の細野豪志代議士とのキスシーンがフライデーで報じられ、TBS「NEWS23」を降板させられた山本モナもキャスターとして復帰、彼女の持ち味も生かせるのではと、なかなかよい出だしだった。

 と思った矢先、今度は巨人の二岡智宏内野手とツーショットでラブホテルに入っていたと10日発売の「女性セブン」が報じ、再び、降板となった。これからというのにと、テレビはこの話題で持ちきりとなり、彼女はバラエティ番組からも姿を消した。最初の騒動の後、バラエティ番組に活躍の場を移し、一時はうまく乗り切ったようにみえた矢先だった。

 ラブホテルに入った現場を直接、見たわけでもないし、別に何もなかったという説明にも、そういうこともあるのかなという程度。もっと話しをしたいという場所がラブホテルだったのはワキが甘いという程度。違和感を覚えたのは、彼女の二度に渡る降板騒動を通して注目された報道キャスターという存在。

 最初のフライデー騒動の時、恥ずかしくも(何で恥ずかしいのかよくわからないのだが...)コンビニでフライデーを買った。そこには二人のキスシーンが大きく掲載されていた。細野豪志代議士が妻帯者でなければとの思いも頭をもたげたが、とても綺麗なキスシーンだった。かつての旧帝国憲法下の貞操という法的概念はさておき、現民法下においても、婚姻した夫婦は相互に、その婚姻を継続させる責任をおっている。だから不倫はいけない。
 それでも結婚していても、恋に落ちることはあるし、個々に責任を果たせば、他者がとやかくいうことではないだろう。下世話にいえば、あんなキスシーンを演じたことはなかったなと少し羨ましくなったりもした。おっと本題に戻ろう。

 山本モナ。どんな女性かは実際にはわからないが、テレビに登場していた彼女は美しく、知的で、これまでのタレントにはないユニークさもあり、魅力的だった。彼女はワキの甘さで間違ったのではなく、我が国の報道番組におけるキャスターというあり方をはき違えたのだ。また報道番組というものがバラエティ番組化している中で、彼女の存在を利用しようとした製作者側にも誤謬があった。

 彼女は最初の不倫騒動の後、バラエティ番組の中で、知的な女性としての役割を与えられていた。それを踏まえて、きっと「サキヨミ」の製作者は、ほとぼりが冷めたと思ったのだろうし、彼女の側も、バラエティ番組の中での知的な女性として役割を拡張できると思ったのだろう。

 そろそろテレビにおける報道番組とは何かを考える時期なのではないだろうか。この騒動の約一ヶ月ほど前、米国NBCテレビの看板キャスターで、米メディア界を代表する政治記者の1人、ティム・ラサート氏が心臓発作のためワシントン市内で死去したとのニュースが届いた。あのブッシュ大統領さえ声明を発表し「不屈の意志を持つ勤勉なキャスターだった」と突然の死を悼んだ。58歳だった。

 ニューヨークに生まれた彼は州知事や上院議員のスタッフとして働いた後、1984年にNBCに入局、ワシントン支局長を経て、60年以上続く人気政治番組「ミート・ザ・プレス」の司会者を91年から務めた。父親はブルーカラーの出身で、おつにすました東部エスタブリッシュメントの面々とは一線を画した人物だった。父親に出演した番組の評価を聞くのが日課となっていたという。

 米誌タイムは、彼を2008年の「世界で最も影響力のある100人」に選んだ。彼は決してブルーカラーの出自を忘れることのない努力の人だったという。民主党予備選の最中、オバマ氏へのインタビューでの逸話が残っている。彼はオバマ氏の上院議員時代の投票行動に全て目を通し、インタビューに臨んだ。とある法案に話題が及んだ際、オバマ氏は、その変節について説明を求められ、汲々としたという。

 彼の葬儀には、生前、批判の矢面にたたされ、政敵と目された人たちも数多く列席した。たとえ政治的な立場が異なるとも、彼のインタビューを受けるのが「政治家としてメジャーリーグに昇格した」ようなステータスであり、誇りでもあったからだ。

 この国の報道番組には彼のようなキャスター、ジャーナリストは登場しない。麻生氏が自民党幹事長に就任すると、ほぼ全てのメディアが「国民的人気が高い」と横並びでかき立てる。官房長官の定例記者会見でも、記者クラブの面々は、なれ合いのように、質問への回答がなくとも、どこまでも執拗に再質問することもない。

 山本モナ。報道番組なのかバラエティ番組なのかわからない中途半端に状況の中で、再度、登場したのが間違いだった。バラエティ番組ならば、不倫騒動は、生き馬の目を抜く芸能界にあっては勲章のようなもの。報道番組を標榜しているのに、彼女に何ら反論の機会を番組の中で与えず、降板させたのは理不尽。下半身の問題は個人に属することで、聞くに堪える報道をしてくれればどうでもよい。

 そんなことで、我が国の報道番組の現状を図らずも露呈させるリトマス試験紙となってしまった山本モナ。十分にリトマス試験紙として役割を果たした彼女は次にどんな登場をするのだろうか。

[2008.0713]

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