top pageothers>08.02_Vol03













 消費者金融のテレビコマーシャルがしらっと変わった。出資法の上限金利29.2パーセント(年利)はそのまま表示しているが、実際の利率は下げている。

 平成18年1月13日の最高裁判決が大きなインパクトを与えた。判決内容は『利息制限法の上限を超える利息について、明らかな強制だけではなく、事実上の強制があった場合も特段の事情がない限りは「無効」とする』というもの。

 出資法の上限年利29.2パーセント(年利)、利息制限法の上限年利15〜20パーセント(金額により異なる)。この間が、いわゆる社会的問題となったグレーゾーン金利。

 最高裁の判決は、利息制限法の上限年利15〜20パーセントを超えて貸し付けることを実質否定した。この判決を受けて、各地で、過払いした利息を取り戻すための裁判が次々と起こされている。

 もう30年も前のこと。最初に勤めた出版社の同僚が突然、退職するといいだした。新しい勤務先はサラ金(と呼ばれていた)だった。彼は大学在学中に結婚、すぐに子供も生まれ、生活のため中退、その出版社に勤務していた。出版社の安月給では「しんどい」と、いつもいっていた。出版の世界でキャリアを積んでいこう。そんな話しもしていたが、現実はままならなかった。

 半年ほどして、昼休みに、彼が勤めている店舗のそばの喫茶店で会った。食事も終わり、とりとめない話しをしていると、彼は「10分ほど待っていてくれるか」といい、足下に置いてあった大きな黒カバンをもって席を立った。やがて彼は重そうに、その黒カバンを抱えて戻ってきた。

 彼は周囲を見わたし、同僚がいないのを確認すると、話し始めた。「銀行に行って現金で2,000万円持ってきた」。彼は話し続けた。「サラ金の原資って、大銀行からの融資なんだよ」「結局、大銀行が最終的には儲かっている」と。

 彼は、店長となっていた。「取り立てで成果が上がると幹部候補生として出世していく」「朝から晩まで電話をかけ、家の玄関には張り紙を貼る」「最後は拡声器で金返せとやるわけよ」....。当時は、取り立てに対する厳しい規制もなかった時代。そんな苛酷な仕事を続け、半年で店長になったそうだ。

 「取り立ての仕事は、せいぜい半年が限度」「それ以上、やると、精神を病むものも現れるから」。そして、彼は「どんなに金に困っても、絶対にサラ金だけには手を出すなよ」「計算するとすぐにわかるが、サラリーマンでは、結局、金利しか返せない仕組みになっているのだから」と語った。

 その会社は、好業績を続け、東証一部に上場した。自社株も持たされていた彼が利益を得たのかは聞かなかったが、その直後に、彼は退職した。その会社は、今ではメガバンクの傘下に入り、営業を続けている。

 コマーシャルでは、可愛いアイドルが「借りすぎに注意」「ご希望に応えられない場合もあります」と微笑んでいる。

 「借りすぎに注意」できる人は借りない。「ご希望に応えられない場合もあります」は免罪符としてのセリフ。借りなければならない人は、そんなことはわかっている。コマーシャルの中には、グレーゾーン金利で儲けていたのに、「金利を下げました」と自慢げにうたっているものもある。

 そんなこともあり、サラ金から借りたことはないが、致し方なく、信販会社のカードローンを利用したことが一度だけある。実は、こっちの方も、金利はかなり高い。金がないときには、本当にない。そんな状況に陥らないようにするのは確かに全て自己責任。でも、誰もが想定外の事態、出来事でそんな状況に陥る可能性はある。

 テレビコマーシャルの美辞麗句を聞くと、彼が話した「金利しか返せない仕組みになっているんだ」との言葉が思い出される。
 
[2008.02.27]

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