最新映画、話題作を観るならワーナー・マイカルで!
top pagemovieスクリーンの向こうへ(バックナンバー)











 「モーターサイクル・ダイアリーズ(原題:THE MOTORCYCLE DIARIES)」。映画館に向かったのは、2004年のクリスマスも近い頃だった。恵比寿ガーデンプレスは華やかなイルミネーションで着飾っていて、あちこちには楽しげな二人ずれがいた。

 チェ・ゲバラ(Che Guevara)。ベレー帽をかぶり、ひげ面で笑っている写真。ボリビアで殺され、瞳を閉じることなく横たわっている写真。彼らはこの世界で何が起こっているのか知らなくてもよいし、自身も何も知らないのかもしれない。気が重かった。




 キューバ関連の映画として思い出すのは、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(BUENA VISTA SOCIAL CLUB)。監督はヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)。1997年にグラミー賞を受賞したライ・クーダー(Ry Cooder)のアルバムのドキュメンタリー映画。

 ハバナの街角には、一昔前のポンコツのアメ車が走っている。壁にはまだ革命のスローガンが描かれている。ライ・クーダーが発掘するまで、老ミュージシャン達がなぜ音楽を捨てなくてはならなかったのは語られていない。

 米国資本がキューバを席巻していた頃に、夜な夜なナイトクラブで、米国人達のために演奏していたため排斥されたのか。




 キューバに行ったことはない。カストロ(Fidel Castro,Dr.Fidel Alejandro Castro Ruz)は歳をとり、演壇から降りる際に、転んで骨折した映像がCNNで繰り返し流された。

 この国が若かった時、彼らは米国への強いシンパシーを持っていたはずだ。幻想に違いないが、アメリカの良質なリベラルと若かった頃のキューバは出会える機会はあったはずだ。

 カーネギー・ホールでのコンサートが演奏が終わると、客席からキューバ国旗を振る観客が舞台に向かって走り出す。革命もまた歳をとる。かつて若かった老ミュージシャン達も、そんなキューバとともに歩いたことだけは確かだった。


 「モーターサイクル・ダイアリーズ(THE MOTORCYCLE DIARIES)」。映画は異例のロングランを続けていた。ロビーは若者達で溢れ、自身と同年代の人たちの姿もあった。チェ・ゲバラ(Che Guevara)。彼に会いに来たのではない。

 今、なぜ、ロバート・レッドフォード(Robert Redford)がこの映画を製作総指揮をしたのかを知りたくて来たのだから…。

 ヘラルド・オンライン(HERALD ONLINE)のホームページをみると、ロバート・レッドフォード(Robert Redford)のコメントが掲載されていた。

「The Motorcycle Diaries」は、ウォルターとコラボレートする完璧な題材に思えました。チェ・ゲバラが極めて扱いに注意を要する主題にもなりうることを思えば、なおさらでした。彼なら、後のエルネストのライフデザイン的な部分に焦点を当てるのではなく、リリシズムとヒューマニティでこの物語を舵取りしてくれるだろうと、私は確信していました。

 「極めて扱いに注意を要する主題」とは何をいいたかったのか。キューバのプロパガンダに利用されることを恐れていたのか。

Let the world change you and you can change the world.
「世界が君を変えることを許すのならば、君が世界を変えられるようになるよ」

THE MOTORCYCLE DIARIES(英文サイト)
http://www.motorcyclediariesmovie.com/




 映画が始まると、そんな思いはどこかに行っていた。裕福な家庭に生まれ、モラトリアムな時間を持て余した二人の若者を主人公にしたロードムービー。

 時代背景は1952年。アルゼンチンのブエノス・アイレス。カフェで二人の若者が地図を広げ、旅行の相談をしている。彼らは傍らの疲れた中年男に視線を送る。残された時間は短い。おいてしまう前にとせかされるように旅を準備していた。

 二人は、当時、23歳の医学生であったエルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)と年上の友人アルベルト・グラナード(Alberto Granado)。

 彼らは家族や友人に見送られ、ポンコツのオートバイに跨り、南米大陸縦断の旅に出発する。旅立つ直前に、エルネストの父親は、何かを暗示するかのように、彼にピストルを与える。エルネストは断るが、それを携えて旅に出る。




 ルートはアンデス山脈を抜けて、チリの海岸線を進み、アタカマ砂漠からペルーのアマゾン上流、そしてアルベルトの30歳の誕生日までにベネズエラに到着する…。

 南米の自然は厳しく、美しい。身なりは汚いが、そこを行く二人の若者はただ若いということだけで美しいかった。最初の目的地はエルネストのガールフレンドの住む農場。当時の上流階級の生活がそこには描かれていた。これから始まる旅の厳しさを予想してか、最後の休息地と感じていたのか、二人は予定を大幅にこえて、この農場にとどまる。

 ガールフレンドはエルネストに、これ以上、待てないと伝えた。彼は、彼女に明確な答えを与えないまま、旅立った。旅には、それが意図したものであるかに関わらず、いくつもの最後の別れが付きまとう。人の成長があるとすると、それは別れによってしか成立しないのかもしれない。




 チリではオートバイの修理をしてくれた機械工に寝場所を提供してもらう。その晩の酒の席で、機械工の妻がエルネストを誘惑する。二人は仲間に追いかけられ、逃げ出す。突然、登場した二人の美しい若者。そこでの日常から逃げ出すつもりはないが、出来心で誘惑する女。こんなことも旅にはつきものだ。やがて二人の旅は当時の南米の現実を知るものへと変化していく。

 ポンコツのオートバイはとうとう動かなくなった。歩いてアタカマ砂漠を抜けようとする途中で、二人は共産主義者を名乗る夫婦に出会う。土地を追われ、鉱山への労働に追いやられた夫婦。そして政治的信条が知られると、次々と鉱山を転々しなければならない。

 ペルーではマチュ・ピチュ遺跡を訪ね、リマに入る。インカ遺跡の破壊の上に築かれたリマ。そのことを語る貧しい少年。リマではペシェ博士の家の投宿する。ペシェ博士はハンセン病の研究で知られた人物である。

 やがてペシェ博士は、二人をアマゾン川奥地の隔離医療施設、サン・パブロに行くように手配してくれる。

 アマゾン川を行く船旅。澱んだ熱帯の空気。アルベルトはなけなしの金を賭けて大金を手にする。客船は売春婦にとっても仕事場だ。彼女の元に飛んでいくアルベルト。

 喘息の発作が治まったエルネストは、この映画の原作本となる『The Motorcycle Diaries』(邦訳『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』現代企画室)を書き綴っている。




 サン・パブロはハンセン病の隔離施設だ。患者の病棟と医療関係者の施設は川を隔てて、隔離されている。患者を手当する修道女は、「川向こうでは手袋を着用する」ルールを決めていた。二人は手袋は断る。

 エルネストは若い女性患者の担当を任される。彼女は絶望の中で、手術も拒否していた。やがて彼女はエルネストとの交流の中で手術を受け入れる。

 エルネストは滞在中に24歳になった。患者達と誕生日を共にしたいと考え、彼は誰も泳ぎ切ったことのない夜の川を対岸に向けて泳いでいく。誕生パーティの席上で、人々はエルネストのことを「チェ(Che)」と呼びかける。そして、彼が述べた「南米は一つにならなくてはいけない」との謝辞に、チェ・ゲバラ(Che Guevara)へと変貌する原点があった。

 サン・パブロの人たちから贈られた筏に乗って、二人は川を下る。そして、ベネズエラの空港にたどり着いた。エルネストは飛行機に乗り、アルベルトは自ら専攻した科学分野の研究に携わることを告げ、別れた。




 ラストシーンは年老いたアルベルトが二人が別れた空港で、当時のように離陸する飛行機を見送るシーンで終わる。彼は、その後、キューバに渡り、医療施設の整備に貢献したという。

 その後、チェ・ゲバラ(Che Guevara)となったエルネストは、キューバ革命を主導し、アフリカのコンゴを経て、ボリビアに渡り、1967年10月8日、アメリカ特殊部隊の支援を受けた政権により捕えられ、その翌日に殺害された。39歳であった。

 美しすぎる映画であった。キューバでの革命後の政治的環境の中を切り抜け、コンゴやボリビアで武器をとり、戦うことの実態は、計り知れない。ただ、今日においても、エルネストがそうであったように、社会的弱者へのシンパシーは自然な感情として誰もが持ちうる。そして、それが思想的な排他主義へと向かう誤謬を避けることは難しい。

 信仰や思想は、真摯に突き詰めれば、突き詰めるほど、排他的となる。その誤謬から、今も誰もが抜け出してはいない。それは突き詰める過程が往路だからだ。もしも、突き詰めた後に、もう一度、その過程を復路として逆走できれば、突き詰めた信仰や思想は誤謬を含むものであり、突き詰め方の構造は誰もが同じだと認識できれば、少なくとも、殺戮までに至る暴力の応酬や対立は避けられるかもしれない。

 ロバート・レッドフォード(Robert Redford)は2004年1月25日、この映画を携え、ハバナを訪問した。チェ・ゲバラ(Che Guevara)の遺族やハバナ市民が映画を鑑賞したという。

 映画はロングランを終えようとしていた。ホームページを見ると、現在、82歳となったアルベルトが撮影クルーと共に6ヶ月にわたり旅をした「もう一つの知られざる物語・トラベリング・ウィズ・ゲバラ」が2月11日(金・祝)〜3月4日(金)の期間、恵比寿ガーデンンシネマで3週間限定レイトショーされる。訪ねてみようと考えている。

2004年・イギリス/アメリカ
監督・ウォルター・サレス(Walter Salles)
製作総指揮・ロバート・レッドフォード(Robert Redford)他
エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ=ガエル・ガルシア・ベルナル(Gael Garcia Bernal)
アルベルト・グラナード=ロドリゴ・デ・ラ・セルナ(Rodrigo De la Serna)

(C)HERALD ONLINE

モーターサイクル・ダイアリーズ コレクターズ・エディション
3,760円
初回特典
Dramatic!プロデュース「アメリカン・スプレンダー」デザインカード&Dramatic! EX
※初回版がなくなりしだい通常版に切り替わります。

モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版
3,040円
初回特典
Dramatic!プロデュース「アメリカン・スプレンダー」デザインカード&Dramatic! EX
※初回版がなくなりしだい通常版に切り替わる。

2005.04.30掲載
陽のあたる場所から
movie





Copyright (C) 2012 Archinet Japan. All rights reserved.