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 ママの遺したラブソング(原題:A Love Song For Bobby Long)。2005年ゴールデン・グローブ賞主演女優賞ノミネート。

 監督・脚本はシェイニー・ゲイベル。ドキュメンタリー分野出身の女性監督。1997年、初めてのドキュメンタリー長編映画「Anthem」をクリスティン・ハーンと共同監督で作り上げ、映画芸術科学アカデミーでその年の優秀ドキュメンタリー作品に選定され、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭では国際映画批評家賞を受賞した。

 本作がフィクションの初監督作品。舞台はルイジアナ州ニューオーリンズ。構想から完成まで5年をかけた珠玉のストーリー。その間、出演を切望したスカーレット・ヨハンソンは何度となく監督とミーティングを続けた。すっかり性格派へと変貌したジョン・トラヴォルタが初老の元文学部教授役で渋い演技をみせている。


 物語の隠れた主役は「言葉」と「音楽」だ。登場人物たちが引用するT・S・エリオット、ロバート・フロスト、ジョルジュ・サンド等の言葉の数々は、物語に鮮やかな色を添え、心に刻まれる珠玉の箴言集となっている。

ペパーバック
 カーソン・マッカラーズの小説「心は孤独な狩人(The Heart Is A Lonely Hunter)/1940年」が登場人物たちを結びつける重要な小道具として登場する。

 ブルジーなテイストで溢れるサウンド・トラックも素晴らしい。ボビー・ロングに捧げるラヴソング(Love Song for Bobby Long)とロレーンの歌/私の心は孤独な狩人だった(Lorraine's Song (My Heart Was a Lonely Hunter)が胸に響く。

※カーソン・マッカラーズ(Carson McCullers)
 1917年、米国ジョージア州コロンバスの平凡な中産階級の家庭に生まれた。大学の夜間クラスで創作を学ぶうちに認められ、「ストーリー」誌に短編を発表。彼女が23才の時に「心は孤独な狩人」で華々しく文壇にデビューした。もともと病弱で、31才の時に左半身が麻痺し、指1本で原稿をタイプした。マリリン・モンロー、テネシー・ウィリアムズ、ジプシー・ローズ、リー、A・セイント・スーパーなど欧米の文学界、演劇界、芸術家たちとの華やかな交流を続けて。バイセクシュアル的愛にも生き、時代を先どりした作家として知られる。2度同じ人物と結婚したが、うまくいかず夫は1953年に自殺している。1967没。アマゾン「孤独な狩人―カーソン・マッカラーズ伝」。





 ニューオーリンズ郊外、川べりの古びた家に二人の男が住んでいる。元文学部教授のボビー・ロング(ジョン・トラヴォルタ)と作家志望の青年ローソン(ゲイブリエル・マック)だ。周りには得体の知れない仲間たちが集っている。そして、皆が友人の女性ローレンの死に打ちひしがれている。

 長い間、音信不通だったローレンの娘パーシー(スカーレット・ヨハンソン)の元にも訃報が届く。パーシーは、遠く離れたフロリダのパナマシティで、学校へも行かず、ボーイフレンドと自堕落な生活を送っていた。
 突然の訃報を受け取った彼女が生家につくと、その二人の見知らぬ男が住んでいた。二人はローレンの友人を名乗り、この家は遺言で遺されたのだから、住み続ける権利があると主張する。

 家の中はゴミためのように散らかり放題、昼から酒を煽り、初老の男はパーシーに卑猥な言葉を投げかける。こんな男たちとはとても暮らせないとパーシーはフロリダへ帰る決心をする。



 長距離バスの待合室。パーシーは母の形見のカースン・マッカラーズの小説「心は孤独な狩人」を読み始める。幼くして母と別れ、祖母に育てられたパーシーには母の記憶がほとんどない。この物語の中のシンガーの孤独がシンガーだった母のそれと重なり、パーシーは時間がたつのも忘れて、物語に没頭する。

 その本にはボビーから母ローレンに贈られた言葉が書かれていた。「どんな時も歌がある」...と。母のことを知りたい。生家に戻ったパーシーと男二人の奇妙な共同生活が始まる。

 パーシーとボビーは反りか合わない。口を開けば罵りあい、間にはいったローソンは右往左往している。それでもボビーの皮肉たっぷりの言葉に、丁々発止と相手をするパーシー。生意気だけど利発な女の子。ボビーも本音ではパーシーが可愛くて仕方ない。

 ある日、何かと会話に割り込んでくるボビーが外出し、パーシーとローソンは二人きりで話しをする。相変わらず自堕落に日々を過ごしているパーシーに、何かやりたいことはないのかと聞く。

 パーシーは、「実現するはずもないけれど、病院でエックス線技師の仕事をしたい」とうち明ける。「どうしてだい」.....。「光に透ける骨が体内の肖像画みたいだから」とパーシーは不思議なことをいう。




 パーシーが気になり始めたボビーは、ローレンの思い出はあるのかとたずねる。するとパーシーは思い出はないからも自分で勝手に作ったと話し始める。

「母がお化粧しながら鏡越しに話しかけてくれたり、チーズのグリルサンドを作ってくれたり・・・、そして人気歌手だった彼女のライヴで隣に座った優しい紳士にカクテルをご馳走になったりと作った思い出」「でも母は会いに来なかった」「それで思い出"ごっこ"はやめたの」....。

 そうだ。パーシーを学校に通わせよう。大学教授だった経歴を生かして、ボビーはパーシーの履修証明を持ち帰り、彼女に見せる。金はどうするのか。あろうことか、ボビーはローソンのポンコツ車を300ドルで売りはたき、学費の足しにする。

 大学に入るためには、高校を卒業しなければならない。最初は高校通いを拒否していたパーシーに二人は勉強を教え始め、バスに乗って高校に送っていったりする。
 思った通り、この子は頭のいい子だ。嫌々、タバコをふかしながら勉強を始めたパーシーに、ボビーは「これも神のおぼしめしさ、神とママが君を遣わした」と元気づける。自身もかつて教壇に立っていた記憶を取り戻すかのように。




 季節は秋を迎える。三人が暮らす家には、友人たちが集まり、酒を酌み交わし、ボビーもギターの弾き語りに興じている。そんな友人たちに愛されていた母ローレン。友人たちが自身の中にローレンの面影を見出していることに気がつくパーシー。

 高校生活にも慣れたある日、パーシーは母が遺したドレスで、高校の男の子とデートに出かける。男の子が連れて行ったのはフレンチクォーターのライブハウス。バンドの中には、家にやってくる男がいた。有名なサックスプレーヤーだった。彼は「ここでよくローレンと一緒によく演奏した」と明かす。

 パーシーを見つけたバンド仲間のアフリカ系アメリカンの男は、彼女をパースレーンと呼んだ。そして「覚えているかい」「甘いカクテルをよくご馳走しただろ」...。

 パースレーン。黄金の花のような子。母がつけてくれた名前。どれだけ母が仲間たちに慕われ、自分自身も母に愛されていたのかを知る。

 母が歌っていたライヴハウス、寝転んでよく読書していたお気に入りの大木の根元。素晴らしい歌手として、ひとりの女性として皆に愛された母の住んだ街で、自分自身も捜すように、母の姿を追い求めていく。




   クリスマスイヴの夜、酔っぱらったボビーはローソンに積年の想いをぶちまけ、あげくの果てに大喧嘩だ。ここで初めて二人の関係が露わとなる。

 アラバマの大学で教鞭をとっていたころ、ある事件がきっかけでボビーは家族を失い、大学を追われた。その事件の原因を作ったのが助手だったローソン。二人は、逃げるようにこの街にやってきた。ローソンも9年もの間、自らを責め続けていた。
 そんな心の傷をパーシーに初めて告白するローソン。二人は心を通い合わせるように、暖炉の前で抱き合って眠る。

 翌朝、二人が寄り添って眠っているのを見てボビーはローソンに聞く。「寝たのか」「あの子はまず子供だよ」.....。少し焼き餅も焼いているボビー。

 パーシーはある日、トイレの流し忘れに血尿を見つける。ボビーの腎臓は病魔に侵されいた。退院後、飲酒をとめられているのにボビーは決して止めようとしない。
 パーシーは大学に進学するか悩んでいた。ローソンは、助成金を受けて大学へ行けと薦めるが、手を貸せば彼女が遠くの学校へ行ってしまうだけだ、と寂しさを隠せないボビー。「彼女が出て行ったら物語は最終章だ」....。




 こうして一年に渡る共同生活の中で、三人はお互いにとってかけがえのない存在となっていった。ある日、パーシーの昔のボーイフレンドが突然、弁護士からの手紙を持って訪ねて来る。

 ボビーとローソンには隠し事があった。その手紙でそれがばれてしまう。弁護士からの手紙には「遺された家はパーシーのもので、ボビーとローソンはロレーンの死後一年だけ住める」と書かれていた。すでに、その一年の期限は過ぎていた。

 嘘をつき続けていた二人に怒りをぶつけるパーシー。もう一緒には暮らせないと、家を売り払う手続きをする。困り果てた二人は仲間たちとを誘い、パージー好みの家にしようとペンキ塗りを始めた。それでもパーシーは「これで高く売れる」と毒づいている。

 パーシーは引越の荷造りを始める。手伝っているのは、かつてローレンに思いを寄せていた友人の一人だ。やってきたばかりの頃のローレンに、黄色いパースレーンの花を手渡した庭いじりの好きなこの男だった。

 荷造りも終わり、最後に母が遺した箱をあけたパーシーは、母が出せずにいた手紙の束を見つける。その中の一通の手紙には、楽譜が添えられていた。ボビー・ロングに捧げるラヴソング(Love Song for Bobby Long}と書かれていた。



 パーシーは大学に通うことになった。そんな彼女のために仲間達が集まってくる。あのライヴハウスのバンドも駆けつけてくれた。

 ボビーはパーシーの手をとり、踊り始める。皆に愛されたローレンのような美しい女性へと成長したパーシー。仲間たちは微笑みながら、二人を羨ましそうに見ている。

 最終章。ボビーがかつて語ったような「彼女が出て行ったら物語は最終章だ」とはならなかった。
 ローレンの墓を訪ねたパーシー。その横にはボビーが眠っている。パーシーは本のページを開き、そこに黄色いパースレーンの花を栞のようよ添えた。

 表紙はボビー・ロングに捧げるラヴソング(Love Song for Bobby Long}。その本を書いたローソンと二人は手を繋ぎ、ボビーとローレンの前に佇んでいる。



 最後に流れるのはT.S.エリオットの詩からの引用だ。

 人は冒険をやめてはならぬ
 長い冒険の果てに
 出発点に辿り着くのだから
 そして初めて居場所を知るのだ
 (T.S.エリオット・「リトル・ギディング/四つの四重奏)

 作中ではロバート・フロスト(A Witness Tree)の「幸福とは長さの不足を高さであがなうもの」も引用されていた。

 きっと私たち誰もが、幸福と不幸を織りなしている。避けられない不幸に出会うこともあるだろう。そんな時、ボビーとローソンのように、全てから逃げ出してもよいはずだ。他者からみれば逃亡であっても、自身にとっては大きな冒険かもしれない。誰にも、避難場所が必要な時もある。そして、行き着く処が自身の居場所であるかもしれない。そう信じてもよいはずだ。

 このエリオットの詩の訳は「冒険」となっているが、原著では「exploration」となっている。そして、ここには探求の意味も込められている。
 どうしても、いたたまれない時には、逃げ出してもいいだろう。それでも、その意味を幸福の高みへと向けて探求しなければ、自身の原罪のような出発点にも、やがて行き着く居場所にもたどり着けないのかもしれない。

 偶然と必然が織りなす、それぞれの運命を抱えて集い会う人々。まだ冒険は終わらない。それだからこそ、この家が安らぎの場所だとわかった。そして少女は母の面影を宿した美しい女性へと成長していった。


 

1.Someday/2.Lorraine's Song (My Heart Was a Lonely Hunter)/3.Bone/4.Bobby/5.Different Stars/6.Lonesome Blues/7.Early Every Morning/8.I Really Don't Want to Know/9.Barbara Allen/10.This Isn't It/11.Daughter Like Mother/12.Rising Son/13.Washboard Lisa/14.Blonde on Blonde/15.Praying Ground Blues/16.Love Song for Bobby Long
※アマゾンでの視聴はジャケット写真をクリック。

演奏:テレサ・アンダーソン&グレイソン・カップス
作詞・作曲:グレイソン・カップス
翻訳:ベストライフ・オンライン編集部


「ママの遺したラヴソング」スペシャル・エディション
監督・脚本:シェイニー・ゲイベル
原作:ロナルド・イヴァレット・カップス
キャスト:ジョン・トラヴォルタ、スカーレット・ヨハンソン、ゲイブリエル・マック、デボラ・カーラ・アンガー、デイン・ローズ、デイヴィッド・ジェンセン、クレイン・クロフォード、キャロル・サットン、ウォルター・ブロウ、ウォーレン・ブロショー、バーナード・ジョンソン、ジーナ・ジンジャー・バーナルほか
2004年アメリカ/クロスロード・フィルムズ=ボブ・ヤーリ製作/カラー/2時間/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル
日本語字幕:石田泰子
配給:アスミック・エース
公式ホームページ

(C)http://mamanolovesong.com/

2007.03.14掲載
オール・アバウト・マイ・マザー(TODO SOBRE MI MADRE)
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