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 痛いほどきみが好きなのに(原題:The Hottest State)。

 ニューヨーク。若手俳優のウィリアム(マーク・ウェバー)は21歳。いつものバーでナンパした女の子と気軽な恋愛も楽しんでいる。仕事も順調だし、それなりに満ち足りた毎日だ。

 ある日、バーで、ニューヨークに来たばかりだというサラ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)に出会う。シンガーソングライター志望。彼女は偶然にもウィリアムのアパートの真向かいに仮住まいをしていた。出会ったその夜にキスを交わす。ウィリアムは自分でも信じられないぐらい彼女に恋をした。

 原作はイーサン・ホーク。イケメンではないけれど、独特の印象を残す俳優。脚本、原作を担当、しウィリアムが幼少の頃に離婚し、その後、再会する父親も演じている。

「失恋した女性が恋をあきらめるときに感じる喪失感や弱さを描いた物語は、山のようにあるけど、同じ経験をする男性についての物語は見たことがなかった。だったら自分で書こうと思ったんだ。」(イーサン・ホーク談)

 痛いほど苦い失恋を描いた作品。あんなにも情熱的に愛を交わしたのに、触れられるのも嫌がるようになるサラ。どうにかしてサラの愛を取り戻そうとウィリアム。もう、その段階で、滑稽で、ますます疎ましくなる。何故...。その疑問は決して解けない。ウィリアムがたどり着いた思い。それは「僕は大人になったんだ。何故かって。初めて孤独を知ったから」。

 第63回ベネチア国際映画祭、第31回トロント国際映画祭正式出品作品。アーティスト志望の多いニューヨークのロウアーイーストサイドの空気感を見事に再現し、ノラ・ジョーンズ「Don't Know Why」を手掛けたジェシー・ハリスが聴かせる音楽(サウンドトラック)も素晴らしい。

 5月17日、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー。




 引っ越したばかりのサラのアパートにはベッドがひとつ置かれたまま。出会ったばかりなのに、二人はベッドに寝転んでじゃれ合っている。愛を交わすのも自然の成り行き。でも、サラはウィリアムを拒む。これまで気軽に遊んできた女の子とは全然、違う。ウィリアムはサラを愛し始めているのがわかった。

 毎日のように会い、サラの部屋の模様替えをしたり、二人の時間を過ごす。セックスは駄目だけど、サラはもう何年もつきあった恋人のようにウィリアムに優しい。

 ある日、サラはウィリアムを母親(ソニア・ブラガ)の家に連れて行く。母親にも気に入られたい。ウィリアムは借りてきたネコのように身体を堅くして、母親の話を聞いているだけ。母親には頼りない男にうつるだけ。

 どこにでもあるような母親と娘の会話。不安定なシンガーソングライターを目指している娘が心配で堪らない様子だ。母親は突然、サラの過去の失恋を話し始める。それを聞いたウィリアムは決してサラを悲しませないと決めた。

 ウィリアムに新しい仕事が入った。撮影場所はメキシコだ。その新作映画の撮影旅行に便乗してサラをメキシコへと誘う。
 誰も知りあいのいないメキシコの街。サラは撮影から戻るウィリアムを部屋で一人で待っている。旅は不思議なもの。ニューヨークで待っている日常を一時、忘れられる。The Hottest State。メキシコの暑さのせいだったのだろうか。サラの方からウィリアムを誘い、この街で二人は結ばれる。

 撮影からウィリアムが戻ってくると、二人はまるで残された時間がないかのように、抱き合っている。どちらかともなく、結婚しようといい出した二人。ウィリアムは人生で最高に幸せな時間を過ごしていると満足感に溢れていた。




 撮影を終えてニューヨークに戻ったウィリアムは、花束とお土産を抱えて、すぐさまサラの元へとんで行く。

 あんなにも情熱的に愛を交わしたのに、サラの態度はどこかよそよそしい。ウィリアムにはどうしてもサラの気持ちがわからない。何かが変わってしまった。

 どうにかしてサラの気持ちを取り戻そうとウィリアム。それでも焦れば焦るほどサラとの溝は深まり、やり場のない感情をもてあましていく。
 何が起こったのか全くわからない。寂しさからウィリアムは元彼女サマンサ(ミシェル・ウィリアムズ)に会いに行く。サマンサにもわかっていた。心に隙間があるから私に会いに来ただけ。元には戻らない。二人には後味の悪い、むなしさが募るだけだった。

 21歳の誕生日を迎えたウィリアム。サラのしばらく距離を置きたいという提案を受け入れたので、その日、彼女はそばにいない。ウィリアムは暫く遠ざかっていた母親(ローラ・リニー)に会いに行く。母親には新しい恋人がいた。ここにも居場所がない。

 サラの気持ちも揺れていた。シンガーソングライターとして成功したい。早く、この街で自立して生きていきたい。それなのに、好きだという気持ちを抑えきれないウィリアム。二人でいると、自分の夢が消えていきそうだと不安が募っていく。

 会うための約束もできなくなった二人。ある日、ウィリアムとサラは偶然、出くわす。もう結婚はできないとサラはウィリアムに告げた。




 二人は終わってしまったのか。どうしても納得できないウィリアムは、日を改めてサラに会いに行く。そこはバンド仲間とサラがリハーサルをしている行きつけのバー。ウィリアムはサラの歌を聞いているだけで言葉もかけられなかった。
 演奏が一曲、終わった時だった。ウィリアムは、サラがバンド仲間の男に、少し前まで、自分に向けられていた優しい視線を投げかけているのを見て、その場を去っていった。

 この街のどこにも居場所はない。サラは新しい恋を見つけようとしている。母親にも自分の生活がある。ウィリアムは長い間、音信不通の父親ヴィンス(イーサン・ホーク)に会いに行く。

 ようやく家を探しあてたのに、どうしてここにいるのか分からないウィリアム。ドアフォンを押す。突然の訪問に父親は驚いて、あたふたしている。「家の中に入るか」と誘うが、ウィリアムは「外で話ができない...」といった。
 玄関前のテラス。虚ろな視線の先には、小さな三輪車があった。父親は語り始める。「長い間、連絡しなくて...」「今は、俺も新しい家庭をもって、それなりにやっている」と。

 一人で車を走らせているウィリアム。サラへの思いは消えてはいない。どんな代償も払う気持ちはあるのに、決してサラに近づくことはできない。どこを訪ね歩いても、自分の居場所はなかった。初めて知った恐ろしい程の孤独感。
 ウィリアムはようやく分かった。「僕は大人になったんだ。何故かって。初めて孤独を知ったから」と。

 生きていく中で、誰にとっても恋愛は不可思議な経験。自分だけがとの思いが、いつしか消えていく。心変わりは男にも女にも起こるもの。理由なんかはないし、本人にもよくわからない。失恋は小さな「死」にも匹敵する大きな衝撃。
 サラの心変わりもわからない。考えようによっては、こんなに理不尽なことはない。それでもウィリアムは生きていかなければならない。誰にも受け入れられない。そんな経験を経て、ウィリアムは初めて孤独を知った。そして彼は大人になっていった。新しい恋を探して。


イーサン・ホーク
『原作を書いたきっかけ 失恋した女性が恋をあきらめるときに感じる喪失感や弱さを描いた物語は、山のようにあるけど、同じ経験をする男性についての物語は見たことがなかった。だったら自分で書こうと思ったんだ。

 小説を映画にするにあたり この作品のテーマは、時代を選ばない。小説の脚色に着手したとき、それほど大きな変更を加えなくても問題ないとわかって嬉しかった。時代背景を現代にするためにちょっとした変更をするぐらいですんだ。物語の本質は、映画の登場人物たちが伝えようが、紙ベースで伝えようが、変わりはなかった。

 映画をつくって 低予算で、僕の中で大切にしていた物語を伝えるには、多くの課題を要した。でも仲間との仕事は、仕事という範疇を超えて、まさに僕の人生において最も楽しい体験だった。映画の神様に誓って、僕が一言でも文句を言うなんてありえないよ。

 「恋」について 若者の恋は移ろいやすい。でも恋への関わり方は変わらないと思う。今までシェイクスピア、チェーホフ、テネシー・ウィリアムズの作品を演じてきたけれど、恋愛に関しては昔から何にも変わってはいないよ。』



監督・脚本・原作:イーサン・ホーク
製作:木藤幸江
音楽:ジェシー・ハリス
キャスト:マーク・ウェバー、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ソニア・ブラガ、ローラ・リニー、ミシェル・ウィリアムズ、イーサン・ホークほか

 イーサン・ホークの若き分身ウィリアム役を演じるのは「チェルシーホテル」にも出演し、ウディ・アレン監督作「さよなら、さよならハリウッド」(02)やジム・ジャームッシュ監督作「ブロークン・フラワーズ」(05)などで存在感を示したマーク・ウェバー。 サラ役は「そして、ひと粒のひかり」(04)でコロンビア人として初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた期待の新人、カタリーナ・サンディノ・モレノ、少しハスキーな甘さのある歌声を披露している。演技派の二人が、恋にとまどい傷つけあっていく恋人たちをみずみずしく演じる。また「ラブ・アクチュアリー」(03)、「イカとクジラ」(05)のローラ・リニー、「ブロークバック・マウンテン」(05)のミシェル・ウィリアムズ、そしてイーサン・ホークなどアカデミー賞ノミネート俳優たちが脇を固め、実力に裏づけされた自然な演技を披露している。

提供・配給:Entertainment Farm、博報堂DYメディアパートナーズ/ショウゲート
2006年/アメリカ/117分/ビスタサイズ
公式ホームページ

(C)2006 By Barracuda Films,LLC.All Rights Reserved.
2008.04.18掲載
ラフマニノフ ある愛の調べ(Lilacs)
マンデラの名もなき看守(GOODBYE BAFANA)
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