最新映画、話題作を観るならワーナー・マイカルで!
top pagemovieスクリーンの向こうへ(バックナンバー)











 イン・アメリカ(IN AMERICA)。ニューヨークを最初に訪れたは1970年。次は湾岸戦争に勝利した直後だった。ワシントン開催のA/E/C Systemsの前に、3日間ほど休暇をとった。JFK空港で乗ったタクシーからマンハッタンが見えた時に、身体を堅くした記憶が蘇る。ホテルでも裸足では歩かず、持参したスリッパを使った。注射器の針でも踏めば取り返しがつかないと思った。

 ブルーノートには予約なしで、店の前に並んだ。アフリカ系の人たちもいたが、身なりもこざっぱりとしていて、裕福な感じだった。ホームレスが物乞いに近づいてきた。彼らは決して非アフリカ系の人たちの所には近づかなかった。複雑だった。肌の色が同じだから、シンパシーを感じて、施しをしてくれると思っているのか。そうだとすると、余計に悲しくなった。

 ナンシー・ウィルソンのショーは深夜2時過ぎに終わった。怖かったが、少し街を歩いた。二人ずれの日本人女性にあった。大丈夫なのだろうか。滞在先のグラマシー・ホテルまではかなりの距離で歩けないので、タクシーを拾った。運転手は若い白人女性で、乗り込むと、話しかけもしない。会話自体を恐れているように、クラシック音楽を大音量でかけていた。ホテル名を告げて、着くまで二人とも無言だった。

 翌日は、フェリーで自由の女神像に行った。フェリーの中は、日本でいえば中学生位の子供達で溢れていた。彼らは「God Bless America」を合唱していた。戦争勝利の高揚感と街中に溢れる星条旗。

 3回目は1999年だった。ツインタワーを見上げるスターバックスでコーヒーを飲んだ。そして、あの事件が起こった。




 この映画は2002年に封切られている。あの事件以後のニューヨーク。でも、それは表面的には主題とはなっていなかった。アイルランドからニューヨークに移民してきた若い家族の物語。

 資料を読むと、監督・製作・脚本のジム・シェリダン(Jim Sheridan)の自叙伝的映画だという。彼の映画では、1989年の「マイ・レフトフット(MY LEFT FOOT)」を思い出す。

 フル・モンティ(THE FULL MONTY=1997)、ノッティングヒルの恋人(Notting Hill=1999)、リトル・ダンサー(BILLY ELILOT=200)0、ブリジット・ジョーンズの日記(BRIDGET JONES'S DIARY=2001)、ラブ・アクチュアリー(LOVE ACTUALLY=2003)。アイルランドや英国系の映画を見ると、洒落たラブ・コメディーでも、どこかアメリカ的な価値観とは相容れない毒を含んでいる。

 現在もまだ、アイルランドからアメリカを目指す移民がいるのに驚いた。

 貧しさから逃れてニューヨークにやってきても、すぐに生活は劇的には改善されない。安アパートでの生活。妻のサラは教員職を探すが見つからず、ウェイトレスをしている。

 夫のジョニーは俳優への夢を抱えたままオーディションに通い、タクシー運転手でしのいでいる。そして、幼いクリスティとアリエルの姉妹。




 映画は長女のクリスティのナレーションで進行する。子供が子供らしいと考えるのは大人達の勝手な都合だ。親を選ぶこともできず、生活の拠点が変われば、身ぐるみついて行かざるをえない。目の前に父と母はいるが、夫婦という別の人間関係が存在しているのも知っている。社会的な力量も持たないので、現実を受け入れる以外ない。

 そんな状況の中で、二人の姉妹は、若い夫婦の精神的な保護者のような役割を演じ始める。特に長女の方は無力な存在である自分を受け入れることで、若い夫婦が追い求める夢の基盤がどこにあるのかを静かに明らかにしていく。

 追い求める夢は、いつも現実の上にしか築けない。それでも、あまりにも現実が苛烈だと、かえって社会と対峙せざるを得ない大人の方が耐えられない。あらかじめ無力であること。それをありのままに受け取れること。それが子供達に与えられた役割なのかもしれない。そして、その役割が終わると、彼らも旅立っていく。




 家族が暮らす安アパートの階下に大男のマテオが住んでいる。人と接触もせず、部屋に引きこもっている。アイツは変わり者だから、近づかない方がいいよ。二人は彼が気になってしかたがない。

 ハロウィンの日、二人は彼の部屋のドアをノックする。長い間、彼の部屋のドアをノックしたものはいない。最初は怖い顔で現れ、戸惑っていたマテオも二人を部屋の中に入れる。彼は絵を描いていた。そして、姉妹を通して、家族との交流が始まる。

 マテオが自らの境遇を語ることもないし、彼らも自らを語らない。そんな境界線を二人の姉妹は軽々と越えていく。やがてマテオは病に倒れ、彼らの前から姿を消す。

 この映画に9.11以降のアメリカへのアイルランド的メッセージが込められているとすると、かつてアメリカにあったこの境界線を越えていく理念と能力のことだ。

 長女のクリスティがイーグルスのDesperadoを歌う。このことを知っていたので、この映画を見に行った。いつも最後のフレーズが呼び覚まされる。

Desperado, why don't you come to your senses?
Come down from your fences, open the gate
It may be rainin', but there's a rainbow above you
You better let somebody love you, before it's too late

もういい加減、気がついたらどうだい。
フェンスから降りきてさ。思い切ってゲートを開けてみたらどうだい。
これから君が行く道のりでは雨が降ることだってあると思うけど、空を見上げれば虹が頭上に見えるかも知れないよ。
そしてさ。もう一度、君のことを愛してくれる人を見つけてごらんよ。もう遅いなんて考えてないでさ。

 昨年、イーグルスが来日した際に、アンコールでDesperadoを歌ったという。もう何度目かの「最後の来日」だった。行けばよかったと思っている。

2002年・アイルランド・イギリス
監督・製作・脚本ジム・シェリダン(Jim Sheridan)
製作総指揮・ロバート・レッドフォード(Robert Redford)他
ジョニー(Paddy Considine)
サラ(Samantha Morton)
クリスティ(Sarah Bolger)
アリエル(Emma Bolger)
マテオ(Djimon Hounsou)

(C)Official Web Site
http://www2.foxsearchlight.com/inamerica/

イン・アメリカ(三つの小さな願いごと)
3,900円

マイ・レフトフット
3,980円

フル・モンティ
4,700円
ノッティングヒルの恋人
2,250円
リトル・ダンサー DTSエディション
3,800円

ブリジット・ジョーンズの日記
2,500円
ラブ・アクチュアリー ギフト・スペシャル
6,980円

2005.05.06掲載
ロスト・イン・トランスレーション< >第58回カンヌ映画祭・受賞作決定
movie





Copyright (C) 2012 Archinet Japan. All rights reserved.