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 ジェイン・オースティンの読書会(原題:THE JANE AUSTEN BOOK CLUB)。

 アメリカでは読書会ブームとか。ブームを背景に、カレン・ジョイ・ファウラーが創作した全米ベストセラー「ジェイン・オースティンの読書会」を映画化。

 読書会。誰かの朗読を皆で聞くのかと思っていたら違う。メンバーで決めた作家の本を皆で読み、それについて語り合う集まり。本の登場人物の恋愛、結婚、悩みについて語り合っている内に、誰もが自らのことを話し始めている。

 読書会に参加したのは、それぞれに問題を抱えている5人の女と1人の男。そんな6人が読書会という共通の時間を濃密に過ごす中で、時には罵り合い、時にはいたわり合い、共に傷を癒し、再生へと向かう。気持ちがささくれ立つ出来事ばかりが報道される今日、こんなハッピーエンドがあるのかと思うが、最後にはほっとさせてくれる。

 監督は「SAYURI」「若草物語」で女性脚本家として高く評価されているカレン・ジョイ・ファウラー。初監督作とは思えないほど、緻密な物語構成、的確な人物造形、ウィットに富んだ会話が見事。2008年4月12日からBunakamura ル・シネマほか、全国順次ロードショー公開。


 ジェーン・オースティン(1775〜1817年)は「高慢と偏見」などの作品で知られるイギリスを代表する女流作家の1人。「高慢と偏見」は「プライドと偏見」として2005年の映画化され、その他にも「ある晴れた日に」「エマ」など多くの作品が映像化されている。

 読書会のメンバーが何故、ジェーン・オースティンを選んだのか。この作家の経歴を調べると、活躍したのは大英帝国華やかなりし頃、テーマは中流階級の女性が、いかにして最良の結婚相手を見つけるのか。この時代のハーレクイン・ロマンスのような存在か。本作の舞台は現代のロス近郊のようだが、恋愛や結婚に悩みを抱え、右往左往する姿は百数十年前も、今も、そう変わっていない。

 本作鑑賞には、ジェーン・オースティンの作品を何冊か読んだ方が良いのかもしれないが、そんな予備知識がなくとも、十分に楽しめる。
 



 読書会を開くのを提案し、本作の舞台回しのような役割をするのは結婚歴6回、今は気ままな一人暮らしを満喫しているバーナデット(キャシー・ベイカー)。「ジェイン・オースティンは人生の最大の解毒剤だ」と、彼女の本をいつも小脇に抱えている。ちょっとお節介なのがたまに傷だが、女性の友達からは人生の達人として一目置かれている。

 バーナデットが気になっているのは「男がいなくとも寂しいと思ったことはない」といい放ち、独身主義を貫いているジョスリン(マリア・ベロ)だ。「男」は不要でも、愛犬たちは大切な存在。アフリカで猛獣狩りに使われる勇猛な大型犬、リッジバックのブリーダーをしている。強い犬に拘るのは、「男」への憧れの隠れ蓑かもしれないのに....。ジョスリンは最愛の犬を失い、落ち込んでいた。

 気が紛れるからと、バーナデットはジョスリンに読書会の提案をする。読書会のアイテムは勿論、ジェイン・オースティン。選んだのは6冊の小説。それを1ヶ月毎にリーダーを決め、読み進める。そのためには4人足りない。メンバー探しが始まった。

 読書会って何と気乗りでないジョスリン。ワインを飲んで、美味しい食事をしてと、友人でもいればと誘ったのは高校時代からの友人シルヴィア(エイミー・ブレルマン)だった。シルヴィアは唯一の既婚者。結婚20年の夫ダニエル(ジミー・スミッツ)とうまくいっていると安心している。最初は読書会に大した期待ももっていなかった。ところが突然、夫ダニエルが「何と他に好きな人ができた」と告白、人生最大のトラブルに直面する。やがて二人は協議離婚し、ダニエルは若い女の元へ去り、彼女も独身に戻ってしまう。

 母親が心配でたらないシルヴィアの一人娘のアレグラ(マギー・グレイス)も読書会に参加する。彼女も少しばかり病んでいる。誰にも知らせず、スカイダイビングにチャレンジし、怪我で病院に運び込まれるなど、とにかく行動が過激だ。彼女は両親公認のゲイ(レズビアン)で、恋人を家に引っ張り込み、人目もはばからずとベッドでいちゃついている。
 
 次に参加したのはハイスクールのフランス語教師、プルーディー(エミリー・ダラント)。彼女もジェイン・オースティンの熱心な読者だ。フランス語教師なのに、一度もフランスに行ったことがないのが大きなコンプレックス。夫のディーン(マーク・ブルカス)のフランス出張に同行できることになり、喜んでいる。それも夫の上司の都合で、取りやめ。ディーンと話しを合いをしようとするが、夫はテレビのNBAの試合が気になり、上の空だ。そんな心の隙間に入り込もうと彼女に熱い視線を送る生徒が気になって仕方ない。
 いつも彼女は聖職者のような服を着て、身体を決して露出しない。そんな性向の背後には、ヒッピーのなれの果てのように奔放でだらしない母親スカイ(リン・レツドグレーヴ)の存在か見え隠れしている。

 これでようやく5人となった。最後の一人はジョスリンが連れてくる。ある日、バーで彼女に声をかけてきたグリッグ(ヒュー・ダンシー)。唯一の男のメンバー。彼はジェイン・オースティンに興味はない。「年下の男はどう」とジョスリンにちょっかいを出すが、彼女は何処吹く風。グリッグがジョスリン目当てなのは他の女性たちには見え見えだ。




 こうして6ヶ月間に及ぶ読者会が始まった。

 2月「エマ」。ジョスリンがリーダー。主人公のエマは美しく財産もあり、社会的地位も高く、自分の結婚には興味がないが、他人の縁結びは大好きな女性。資産家の娘で、昔も今も親友のシルヴィアの相手探しに熱中するジョスリンに重なる。そんなエマは、唯一彼女の欠点を指摘できるナイトリーと結ばれるのだが、果たしてジョスリンは──?

 3月「マンスフィールド・パーク」はシルヴィアが担当。主人公のファニーが困窮した家庭から裕福な伯父夫妻に引き取られるが召使扱いをされ、様々な困難に耐えながら、ずっと想い続けた、いとこのエドマンドと結婚するまでが描かれる。シルヴィアも、想いを断ち切れない夫を待ち続けるべきなのか──?

 4月「ノーサンガー・アビー」はグリッグの番だ。は二部構成で、主人公のキャサリンが読みふけっていた怪奇小説に影響されるという後半が、オースティンの著作の中では異色。グリッグは、初心者とは思えない鋭い作品分析を披露。というのも、彼はSFの大ファン。果たしてジョスリンの心を掴むことができるのか──?

 5月「自負と偏見/高慢と偏見」はバーナデット。始めは互いに嫌っていたエリザベスとダーシーを筆頭に、一筋縄では行かない恋愛と結婚が描かれる。バーナデットは彼らに理解を示し、恋愛に懲りるどころか、もう1度結婚したいと語る。彼女に新たな出逢いはあるのだろうか──?

 6月「分別と多感」はアレグラの担当。性格が正反対の二人姉妹の物語。恋心を隠そうともせずに派手に振る舞うマリアンと、慎み深く本心を明かさないエリナーに、自分と母シルヴィアを重ね合わせるアレグラ。人生に刺激を求めてしまう彼女の恋の行方は──?

 7月「説得」はプルーディーがリーダー。婚約を破棄したアンとウェントワースが、様々な誤解を乗り越えて、再び結ばれるまでを描いた作品。プルーディーは、ついに教え子との恋に踏み出すのか、それとも夫との誤解を乗り越えるのか──?

 どうだろうか。実にうまい演出だ。6冊の本が、そのまま映画のひとつずつの章となっている。

 過激な行動に走るゲイのアレグラ。今度はロッククライミングで失敗し、大怪我で入院するはめに。そばには女と別れた(というよりも棄てられてのかも)父ダニエルと母シルヴィアが寄り添っている。こんな娘にしたのには二人にも責任があるのかもしれない。静かに流れる時間の中で、家族として過ごした時間を振り返っていた。

 ある日、ディーンに嘘をつき、教え子の待つモーテルにでかけるプルーディー。重ね着を脱ぐと、いつもとは全く違うボディーコンシャスなミニドレス。モーテルの前には一つの信号があった。ミニドレスのままで家に戻ったプルーディーはディーンに「ジェイン・オースティンを読んで欲しい」と懇願する。夫を愛しているのに、一緒に語り合えない。彼女は追いつめられ、不安で苛立っている。

 SFファンのグリッグはある日、図書館でジョスリンに、最初に父親と読んだSF本を見せる。「君にはこれを読んで欲しい」。それからも会うたびに「本は読んだ」と聞くグリッグ。迷惑で、自分勝手な男。最初はSFなんとかとバカにしていたジョスリンはどうするのだろう。

 最後の打ち上げには全員が正装して集まった。新しいメンバー?もいる。でも、バーナデットが見あたらない。彼女は左手の薬指に大きな宝石を飾った指輪をして階段から下りてきた。果たして7度目は成就したのだろうか。




 大学でITサポートの仕事をしているグリッグの部屋のシーン以外には、IT機器もインターネットも登場しない。次の読書会への準備のため、それぞれがベッドの上で、キッチンのテーブルで一人静かに本を読んでいるシーンが印象的だ。

 アメリカで読書会がブーム。実際の場面に立ち会っていないので、ブームの背景はわからない。推測だが、やはり現状の閉塞感が影響しているのかもしれない。9.11以降、家族、恋人、友人たちとの絆を再確認したとの多くのインタビューを聞いた。ある作家の著作に仮託して、皆、自らを確認し、それを語りたいのではないだろうか。

 この国で、こんな読書会が成立するかという難しいだろう。自らの内面までさらけ出し、ある時は諍い会い、罵り合い、そんな過程を経て、人間関係を築いていくという方法を私たちは知らない。

 本作に描かれた「本」という存在へのアプローチは理想的でもある。どんな本でも、必ず、立ち止まり、その場を何度も踏みしめるように、共感できる部分がある。その場が、それぞれ異なっていたとしても、共感への構造は、理解し合えるかもしれないからだ。

 学生時代に、部屋を訪ねると、背表紙を反対側に向け、書名がわからないように本棚に並べていた友人がいた。彼いわく「どんな本を読んでいるのか知られるって、まるで自分の中身を見られているようで恥ずかしい」と....。確かに「本」という存在には、そんな一面がある。

 読書会。ジェーン・オースティンを女性たちはあらかじめよく知っていた。とすると、それぞれがどこで立ち止まるのか、どこを踏みしめるのかもわかっていたのかもしれない。男たちは、ここでも後からやってきて、そんな女性たちの共感への構造を理解する中で、彼女たちの再生に立ち会い、そして自らも癒されていった。

 
監督:ロビン・スウィコード
製原作:カレン・ジョイ・ファウラー
「ジェイン・オースティンの読書会」(白水社刊)
脚本:ロビン・スウィコード
撮影:ジョン・トゥーン
音楽:アーロン・ジグマン
キャスト:キャシー・ベイカー、マリア・ベロ、エミリー・ブラント、エイミー・ブレネマン、ヒュー・ダンシー、マギー・グレイス、リン・レッドグレーヴ、ジミー・スミッツ、マーク・ブルカス、ケヴィン・ゼガーズ、グウェンドリン・ヨーほか
2007年/米国/1時間45分
公式ホームページ

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2008.03.27掲載
マイ・ブルーベリー・ナイツ(My Blueberry Nights)
ラフマニノフ ある愛の調べ(Lilacs)
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