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監督・脚本:ニンツァイ
製作:ナーレンホア、ニンツァイ
撮影:ジョン・リン
音楽:オーラントグ
キャスト:ニンツァイ、ナーレンホア、チャン・ランティエンほか
10月6日(土)より岩波ホールにてロードショー!(他全国順次公開)
公式サイト:白い馬の季節
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 『草原の愛 モンゴリアン・テール』、『天上草原』、『モンゴリアン・ピンポン』など、これまでにも内モンゴルを舞台とした傑作は数多く作られてきた。そこに描き出されたのは、みずみずしい緑に輝く草原と、人情味あふれる純朴なモンゴルの人々であった。

 ところが、同じ内モンゴルを舞台としながらも、本作『白い馬の季節』は、まったく趣の異なる作品となっている。

 映画は、乾ききって、砂埃が風に舞う一面の砂漠から始まる。『黄色い大地』を思わせる、死んだような土地で、狂ったかのように舞い踊りながら、雨乞いの歌をうたう村の長。

 「旱魃の草原に 万物救う
  慈雨甘露を 与えたまえ
  ヒスイの如き輝きを
  大草原に与えたまえ」

 砂漠化によって死にゆく草原。その中で遊牧民としての誇りを捨てまいと抵抗する男。夫の思いを理解しながらも、押し寄せる現実の波に抗えず、町へ出ようとする妻と息子。

 本作は、モンゴル族出身の監督が描く、気高き草原の民の誇りと愛惜の物語である。

 人々が次々と草原の暮らしを捨て街へと引っ越していくのを横目に見ながらも、遊牧民の生活をあきらめきれないウルゲン。息子の将来のためにも、妻は老馬を売り、町へ引っ越すことを懇願するが、ウルゲンは承知できない。

 モンゴル帝国の子孫であることを誇りとし、「馬上で生まれ馬上で死ぬ」とも言われる騎馬民族・モンゴル族にとって、馬を手放すということはすなわち、そのアイデンティティを放棄することと同じなのである。そして、その誇りに縛られ、ウルゲンは未来への一歩を踏み出すことができない。

 現実にあらがえず、ついに愛馬サーラルを手放したウルゲンが、過去の栄光に取りすがりながら絶望に打ちひしがれる姿は、観る者の胸を打ち、哀切な涙を誘うものである。

 回族の作家で内モンゴル牧畜民の中で暮らした張承志氏によると、ウルゲンの愛馬の名「サーラル」とは「白」という意味。ただし、理想を表す純白ではなく、馬の毛並みに混じりけのある、灰色がかった白のことだそうだ。張氏は、本作のモンゴル語題名『Qak-un sarel』とは「流れゆく時間の中の白」、すなわち、「凶暴な力を持った時代の変化の中に立つ、ひとつの文明、ひとつの民族の姿を隠喩している」という。

 本作で監督デビューしたニンツァイは、彼自身が内モンゴル自治区ホルチン地方の牧畜民家庭の出身。そのホルチン地方は、今急速に広がる砂漠化の被害にさらされている場所である。監督が自演した主人公・ウルゲンは、まさに監督自身の分身と言えよう。

 砂漠化については、日本でも黄砂飛来の問題とからんでしばしば報道され、よく知られている。その原因は、降水量の低下、干ばつ、強風などの自然現象、漢族の移住による急激な人口増加、草原をつぶして作られる農地の拡大、羊の過放牧などの人為的な要素が絡み合っている。中国政府は、ここ数年、生態環境保護のために、自然保護区の拡大、草原の回復、放牧の禁止、他地域への移住などさまざまな対策を講じているが、それらがさらに内モンゴル牧畜民の伝統的な暮らしを奪う結果をもたらしているのである。

第25回ハワイ国際映画祭NETPAC Award(最優秀アジア映画賞)受賞
第26回ダーバン国際映画祭最優秀撮影賞(ジョン・リン)受賞




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