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『一歳未満の無意識の組み合わせがよければ、好きということになる』

 これまで何人かの女性を好きになりました。もう年齢的には人生の三分の二が過ぎましたが、これからもそんなことがあるかもしれません。こればかりは予想もつきませんし、止められるものでもありません。

 後からとってつけた理屈のように思いますが、私には、相手が何か困った状態にある時、それを察して近づき、気持ちを開いてくれると、急速に惹かれていく傾向があります。それがどういうことなのか、はっきりと掴めてはいません。

 三年前に亡くなった父は中国戦線に7年間、従軍し、昭和21年に復員しました。男女の性が介在する夫婦の関係は親子の関係とも異なるもので、二人がどんな思いで生きてきたのかはわかりませんが、母は父が亡くなった三ヶ月後に亡くなりました。今では仲のよい二人だった、二人の人生はよいものだったと思っています。

 二人がどのようにして知り合い、私が生まれたのか、生前に聞く機会はありませんでした。私は昭和26年に生まれています。それから中学生の頃までは、怒られるとよく殴られました。その時、母は身体で私を覆い、いつもかばってくれました。母はしっかりと優しさは持ち合わせていたはずなのに、何故か、愛されている、優しくされたという記憶が希薄なのです。

 きっとこうなのでしょう。父は戦争についてほとんど語りませんでしたが、ある時、「中国共産党は全土を支配しているというが、あの国は広すぎるから、点と点とかおさえていない」「日本国憲法はきれいごとだ」「結局、戦争は人を殺すことだ」と語りました。父は人を殺したのかは語りませんでしたが、7年間も従軍していれば、聞かなくともわかりました。

 「結局、戦争は人を殺すことだ」という体験から6年しか経過していない時期に生まれた初めての男の子。その場では父の理不尽な暴力は全く理解できませんでしたが、かなり後年になり、それが何らかの形で父の戦争体験に根ざしているのかもしれないと考えるようになりました。人の中に内包された暴力は、そんなに簡単に解消されないからです。
 母も同様に、父に対する畏れがあったはずです。それは私が母の中にいる間も続いていたはずですし、母の気持ちを不安定にしていたはずです。

 何故、あの人を好きになったのだろうか。そんなことを考えていると、吉本さんの言葉に出会いました。吉本さんは何冊もの著書の中で「一歳未満までの母親との関係でその後の性格は決定される」と記しています。そして、「一歳未満の無意識の組み合わせがよければ、好きということになる」とあります。

 私が好きになる女性には、経済的には恵まれ、両親も揃い、一見すると幸せな家族のように見えても、愛されているという感覚が希薄な人が多かったように思っています。
 ある女性は「何で一人っ子なのですか」と聞くと、「母がセックスは嫌いだからといっていた」と答えました。この一言でもういいという感じでした。ある女性は戦後の混乱のためだったのか、「突然、小学生6年生の時に父親が出現した」とうち明けました。「どうしてもお父さんとは呼べなかった」といい、時々、私を「おとうさん」と呼ぶことがありました。もう十分でしょう。

 愛されているという思いが希薄だということが私に課せられた「無意識の組み合わせ」のように思っています。だから何かの欠落を埋められると考え、近づき合うのですが、なかなかえまくいきません。

 それはすぐに煩雑な日常が始まり、そんな気持ちは紛れてしまうからであり、大げさにいえば、もしかすると救済しあえるともしれない、欠落を関係性の中で埋めらるかもしれないとの思いが、対極のような過剰な期待に転化してしまうからです。

 そして、お互いに、優しくしてほしいから、優しくしているとの過剰に気がつき、そこに含まれる一種の傲慢さで傷つけぁってしまうのです。



「だけど、それにもかかわらず、ある距離以上に隔たっていたときには、容姿のいい人とか、しゃべることに知識、教養があったりとか、性格的なよさがあったりというようなことがものをいうわけですね。そして、もしかするとそれはきっかけになるかもしれない、ということはあるわけです。だけど、そんなことは、ほんとに好き嫌いになったら問題にならないということは疑う余地もないですね。その手のことはすべて問題になりませんね。好き嫌いっていうのはもっと違うことだよと思います。一歳未満の無意識の組み合わせがよければ、好きということになる、と極端にいえばそうだと思います。」

出典:「僕ならこう考える」こころを癒す5つのヒント(青春出版社)(P49〜50)

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