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 袋井のある工場の計画の際のことだった。200Kmの速度で走る新幹線の中から、10秒間で工場がどのように見えるのかを検証した。最初に建物本体、煙突、広告塔、前面の池、そして道路、背後の丘などの地理情報などをコンピュータに入力した。

 新幹線に乗っている人が進行方向の斜め前方に工場を見つける。進行とともに、車窓の中の工場を追いかけるように視線を移動し、工場が90度で視線に正対するまでを、1秒ごとのコマ送りで透視図を出力、検討した。




 新幹線に乗っている人が工場を視界に捉える。動的な視線検討のシミュレーションを10枚のコマ送りの透視図で再現する。

 ホールの事例と同様に、極めてシンプルなワイヤーフレームの透視図だった。この事例に遭遇した時のことをはっきりと覚えている。そして、このような表現の意味するところを考え始めていた。

 建築の専門家として建築の内部にいたことはない。編集者として建築の外側にい続けただけだ。編集者の仕事とは、専門性の背後に隠され、専門性が気がつかないで通り過ぎようとしているものに気づくことでもある。そして、専門性をいかにして一般に開いていくのかだ。




 この事例では、こんなことがいえるだろう。計画段階では設計者が自らの必要性によってコンピュータ部に要請して10枚のコマ送りの透視図が描かれた。2次元図面だけでは判断できない状況をコンピュータの能力をかりて、視認しようとした。これまで見えにくかったものを具体的な出力結果として確認できる点は、専門性の内部でも意味あることだ。それは建築内部のコミュニケーションの質を決定的に向上させる。

 しかし、それ以上に意味があるのは、多くの場合、建築の素人であるクライアント側へ向かって専門性が開かれていくことだ。

 クライアントは、平面図と立面図を見せられても、建設される建物を具体的にイメージするのは困難だ。コンピュータによるCGは、符丁のように交わされていた建築内部のコミュニケーションの質を向上させると共に、建築の専門性をクライアント側に開くことに大いに貢献した。

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