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 同様の事例があるホールの設計でみられた。従来、観客席から舞台が見えるかの確認には主に2次元の断面図を用いていた。しかし、この方法だと、断面図を描く箇所が極端に増えるだけでなく、全ての観客席から舞台が見えるのかの正確な確認は困難だった。

 設計者は、そのような課題を抱え、コンピュータ部にやってきた。「前方の人物によって、どの程度、視野が遮られるのか」「2階席の張り出しで、1階席では圧迫感が生じないのか」「壁や天井の形状はどのようにするのか」「ホール全体の広がりはどうとらえるのか」なども検討対象となった。そこでホール全体をコンピュータ内部に電子情報として構築し、透視図による確認を行った。




 座席に座る人物の座高データも入力した。当初、座高データを一人ずつ入力していたが、手間がかかり過ぎるため、設計者と協議を行い、コンピュータ部が座高データを自動生成するプログラムを開発し、対応した。

 視点を変更しながら、何枚も透視図をXYプロッタで描いた。その結果、2階席の張り出しが一部、1階席に影響すること。2階席の手すりが僅かに視線の確保に影響することが確認できた。そこで1階席の壁際は1席とし、2階席の手すりの形状も変更した。

 人物の座高データの自動生成にみられるように、設計検討の中で開発されたプログラムはライブラリーとして保管され、次回から再利用された。しかし、他のホールでは設計の与条件が異なり、このプログラムをそのまま利用できないこともあった。ここに建築が一品生産であり、他の製造業とは決定的に異なるコンピュータ利用の困難さがある。




 現在では、比較的、小規模な設計事務所でも、パソコンCGシステムを用いて、同様のことが可能だ。数値データを変更すれば、短時間で、何度も、すぐに画面上で舞台の見え隠れを確認できる。

 このホールの設計検討で用いた透視図は、隠線消去前のワイヤーフレームによるものだった。隠線消去がコンピュータに負担をかけるため隠線消去しなかった背景もあるが、視線の見え隠れの検討には隠線消去しないワイヤーフレームによる透視図がかえって向いていた。

 このことは、現在のように、有り余るコンピュータ性能をそのまま用いて、アプリケーション機能のみに任せれば良いのか、建築設計におけるCAD(Computer Aided Design)の「支援」とは何を意味するのかなど、多くを示唆している。コンピュータを用いても、個々の設計事例の中で最適な解を見つけ、それを判断し、設計に生かすのは、設計者自身だからだ。

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