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1982年の暮れも押し詰まった頃、日建設計東京本社を取材依頼で訪問した。年明け早々から本格的な取材に入り、約3ヶ月間に及び、同社のコンピュータ利用の現状を徹底的にヒアリングした。
この長期に渡る取材を通して、建築におけるコンピュータ利用の可能性が明確になっていった。また、他の産業分野とは決定的に異なる建築でのコンピュータ利用のユニークさや課題も明確になった。
コンピュータ室への入室を許可された時のことを鮮明に覚えている。ザイネティックスと呼ばれるXYプロッタがあり、超高速で図面を出力していた。
最初に気がついたのは、図面が鉛筆で描かれていたことだ。この「鉛筆で図面を描く」ことがそれ以降、ある段階まで、建築におけるコンピュータ利用の隠れた主要テーマとなっていく。
このXYプロッタは、用紙が水平に置かれており、それに対して、鉛筆の芯が垂直に接触し、作図する方式だった。鉛筆の芯は、複数本、装着できるフォルダに納められており、芯がなくなると、新しい芯が次々と補充され、作図が続けられる仕組みとなっていた。
事前の取材で船舶、橋梁、地図、織物など他分野におけるCADシステムを数多く見てきたが、鉛筆で作図しているケースは皆無だった。その点を最初に質問した。回答は、それ以降、決して脳裏を離れることのないユニークなものだった。それは「XYプロッタの出力結果に手描きで加筆・修正することがある」というものだった。
そのことの意味は、取材を続ける中で、すぐに明らかとなった。それはXYプロッタからの出力以前に入力された設計対象の建築物の電子情報は最終(成果物)データではない。あくまでも出力された結果及びそれに加筆・修正された図面が成果物であり、それ以前に入力された電子情報は、二次的な意味しかもたいないということだった。
更に興味深い話を聞くことができた。当初、このXYプロッタは鉛筆での作図を想定して開発されたものではなかった。そのためベンダーと協議し、鉛筆での出力が可能となるように、さまざまな調整が行われた。
鉛筆の芯は、紙との間の圧力が適正でないと、すぐに折れてしまう。協議の相手は、XYプロッタのベンダーに加えて、鉛筆の芯のメーカーにまで及んだ。何故、ここまで拘ったのだろうか。出力結果への加筆・修正に加え、鉛筆による図面の濃淡までを表現しようとしたためだった。
出力後の図面にどうして加筆・修正するのか。コンピュータ内部の電子情報の方が主たるデータではないのか。鉛筆で描いた線に何故、濃淡が必要なのか。XYプロッタのベンダーと鉛筆の芯メーカーと協議の過程で、当初、彼らには日建設計側の意図が全く理解されなかった。
当時、同社ではIBM
System/7という大型コンピュータで作図処理を行っていた。
現在のように設計者の手元に一人一台のパソコンがあり、設計者自らがCADシステムを用いて設計する環境はなかった。設計者はディスプレスを通して図面(電子情報)に触れることはできなかった。
現在、設計者は出力した図面に手描きで加筆・修正することはほとんどないだろう。パソコンCADで電子情報に対して直接、加筆・修正する方が簡単だし、それが可能な環境にもある。
しかし、一方で、施工図との関係にみられるように、「最終的な建築物の実データはどこにあり」「それは完全に電子化されたものなのか」というテーマは残っている。
このように、現在まで引き継がれ、当時は背後に隠されていたさまざまなテーマをひとつずつ明らかにしつつ、取材は進められた。
※ザイネティックス社のホームページ
http://www.Xynetix.com/
は見つけられたが、XYプロッタはすでに製造していないようである。
(C)NIKKEN SEKKEI
Ltd.
(C)X-Knowledge
Co.,Ltd.
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