MoMAオンラインストアジャパン
top pagearchitecture>1982年〜[9]











 資料をまとめていると、あの時代の熱気のようなものが思い出される。まだ個人で購入するには高価であったが、パソコンは現実に手に入るものとなった。あらゆる分野で何かが変わろうとしていた。

 散在している現象を編集実務の中で再構成することで、今、起こっていることがどこに向かっているのか理解できると考えていた。誰もが時代に寄り添っているといった感覚で気持ちも高揚していた。

 そんな状況の中で、編集部にも沖電気のif800 model30というパソコンがやってきた。8ビットパソコンの最高級機で、8インチ・フロッピーを2基内蔵。主流のOSだったCPMの上で専用BASIC言語も使用できた。

 今でこそ、同社は、パソコン市場から撤退しているが、このパソコンは、プリンタ一体型というコンセプトで日本語ワープロも内蔵するなど、極めた実用性に富んだものであった。単漢字変換でA4一枚の文書作成にも時間がかかり、ドットインパクト・プリンタから出力される文字は16ドットと粗く、印刷された文書は、美しいとはいえなかったが、それでも取材依頼文の作成などに大きな威力を発揮した。

 この段階で、ようやく手書き原稿から日本語ワープロでの原稿執筆に移行できた。しかし、編集業務はDTPシステムと連動しておらず、日本語ワープロでの出力原稿と手書き原稿が混在化したまま、レイアウト担当のデザイン事務所に渡し、写植による手作業の版下制作を行っていた。

 今からは想像もできないほどの環境だが、それでも編集・出版という仕事もデジタル化前夜という様相を呈していた。




 そんな熱気溢れる雰囲気の中で「建築とコンピュータ」誌第一号の編集は終わり、店頭に並んだ。刷り上がったばかりの第一号を読み返す中で、単に一雑誌の編集に参加したというよりも、これ以降、個人的にも継続して追いかけていくべきテーマに遭遇したかもしれないと考え始めていた。

 取材対象として追いかけていた建築分野以外でも、あらゆる領域にパソコンが導入されつつあった。厳重に管理され、神のように不可侵な存在の汎用大型コンピュータの時代は終わり、もうすぐ一人に一台のパソコンが手元にやってくる。それは産業分野だけでなく、日常生活をどのように変えていくのか。今に至るテーマは、すでにその時、ひとつの萌芽として朧気ながら目の前に登場していた。

(C)Oki Electric Industry Co., Ltd.

前回< >次回




MoMAstore
Copyright (C) 2012 Archinet Japan. All rights reserved.