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 国内事情の調査のため複数の設計事務所や建設会社を訪ねた。手描きの製図板は完全に姿を消しており、ネットワーク機能を装備したCAD・CGツールが稼働していた。

 設計者の世代交代も進んでいた。三十代半ばの設計者に質問しても、学生時代からCAD・CGツールを使用して設計の演習を行っており、CAD・CGツールの黎明期にあったような議論、検討について興味を示すことはなかった

 ファーシド・ムサヴィ氏の経歴を読むと、それらわが国の中堅設計者とほぼ同様の時代背景でCAD・CGツールに触れた世代であった。




 CAD・CGツールとそれによって生み出されるデジタルデータが設計に及ぼす効用に絞ってムサヴィ氏に質問を続けた。

 最初に同氏が述べたのはコスト(時間)についてであった。特に、横浜港大さん橋国際客船ターミナルのような巨大プロジェクトではいかに計画通りにプロジェクトを進捗させるかが問われる。その際には、コスト面で加工性、再利用性に優れるデジタルデータは大いに効果を発揮する。

 国際客船ターミナルでは複数の建設会社がJVを組んでいた。同氏は講演の中で「トランスファー」という言葉で説明していたが、それら複数の組織・機能間を円滑に結びつける際にもデジタルデータは効果を発揮する。


 講演時に示された各種デジタルデータを見ると、設計時のデータは施工段階にもフルに援用されていた。プロジェクト全体をコントロールする鍵となるのがデジタルデータであり、それらデジタルデータが複数の組織間、工程間を繋ぐ意味でも「トランスファー」という言葉を使用したと考えられる。

 デジタルデータの効用とそれらをプロジェクト全体に援用するメリットを強固に認識しているという意味で同氏は新しい世代の建築家といえる。




 「形」を生み出す際にCAD・CGツールがどのような効用を持つのかについても聞いた。それについては「CAD・CGツールを使用し、シミュレーションを行う中で、偶然に新しい形を発見することありますか」と、世界的な建築家には少しばかり失礼かとも思える質問をしてみた。

 同氏は笑いながら「あります」と答えてくれたが、続けて真剣な表情で話を続けた。「デジタルデータのメリットはさまざまなシミュレーションがデザイン的にも、構造的にも、短時間で繰り返し可能なこと」「更に最も重要なことは「ミス」を発見しやすいことである」と続けた。

 デジタルデータによるにしても、いぜんとして設計図は「絵」としても側面を持っている。納まりなど3次元の取り合いを含めて、施工段階で初めてリアルなデータが必要となる。

 同氏によると、「加工性、再利用性、流通性の高い設計時のデジタルデータはリアルなデータが必要とされる施工段階にも援用できるはずだし、また援用してこそメリットが生かせる」「今後は、単なるプレゼンテーションなどへの利用だけでなく、設計と施工全般を通じて、3次元データのメリットを活かすべきである」ことなどを語った。




 オートデスク社の協力により、同社の3次元システム「Revit」の次期バージョンを目にする機会も得た。

 すでに2次元図面のCAD化・デジタル化は基本的には終わったといえる。CPU性能の劇的な向上、インターネットによるネットワーク化の進行などを受けて、今後は、3次元ツールをどのようにして設計や施工の中でいかしていくのか。プロジェクト全体の結節点を結び、それらを「トランスファー」していくのかが問われる段階に入ったと考えられる。

 その意味では、オートデスク社が発表したキーコンセプト「図面を描く時代からプロジェクトを描く時代へ」は、それらの環境変化を充分に認識したものであろう。すでに同社のシステムはデファクト・スタンダードとなった。今後とも動向に注目し、折に触れて紹介していきたい。

ファーシド・ムサヴィ(Farshid Moussavi)
Foreign Office Architects Ltd(foa)

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