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 CAD・CGツールの普及に伴い、建築の設計はどのように変化したのであろうか。「形」の決定にCAD・CGツールはどのように貢献しているのであろうか。「ガウディ かたちの探求」展におけるCGを駆使した近年のガウディ研究の成果について触れた。

 それらの興味を携えて、横浜港大さん橋 国際客船ターミナルを訪ねた。オートデスク社の協力により、この国際客船ターミナルの設計者の一人である※1)ファーシド・ムサヴィ氏(Farshid Moussavi)へインタビューする機会を得たためであった。




 六本木ヒルズ森タワーの六本木アカデミーヒルズでAutoCADの新バージョンの発表会が2月24日(2003年)に開催された。当日、ファーシド・ムサヴィ氏はAutoCADを用いて国際客船ターミナルを設計した際のさまざまなデジタル・データを用いて特別講演を行った。

Yokohama International Port Terminal,Japan,1995
(C)Design: Foreign Office Architects
 横浜港大さん橋 国際客船ターミナルを訪ねると、自然の地形を模したような特異な形をしている。屋上部分は、なだらかな丘のような形状をしており、その形状を楽しみながら散策できる。内部空間も同様に曲面を多用した形状をしている。この形状を実現するために建物表面には細かく裁断された木材が施されている。

 今回の講演で最も興味深かったのは、それらの形状を設計段階においてシミュレーションしたCG動画であった。CG動画の多くは、3次元のワイヤーフレームで表現されていた。あえて3次元のワイヤーフレームによる表現を採用したのは、この特異な形状とそれを表す細分化された木材の使用と関係があると考えた。

 直線の集合による3次元のワイヤーフレームCG動画を見ると、細分化された木材片を組み合わせた形状がイメージでき、実際に国際客船ターミナルを訪ねた時の感覚が蘇ってきた。




 CAD・CGツールが設計現場に入り込み始めた段階では手描きと併用されていた時期があった。取材時にベテランの設計者からはよく「一本の線に意味がある」と聞かされた。
 そのことをムサヴィ氏に話すと、最初、怪訝な表情をした。つたない英語で「In Japan」と付け加えると、「CADで描く線は手で描くのと同じぐらいパーソナルなものだと思っている。CADで描く線もデザインの意味や意思を伝える上で一本の線に意味がある。手で描く線は、意味に応じて筆圧が加えられたり強調することで意味があるのと同じである」と語った。

 また設計者が製図板に向かい、手を動かすことで、縮尺の感覚を獲得することや、手で直接、触れる模型の効用についても質問した。そのような「手作業(フィジカル)に関わるリアル」な感覚とCADツールを用いる際の一種「バーチャルな感覚」の違いについて確認したかったからだ。

 それに対してムサヴィ氏は「模型を使うことは決して"リアル"ではない。縮尺も材質も異なるため、本物のリアルさを伝えることは模型では決してできない。立体的な検証という点においても、模型では限定されてしまうが、デザインプロセスの中でデジタルツールを使うことの有利さは、アニメーションなどを使うこともでき、模型よりもはるかに自由で複雑なシミュレーションが可能なことにある」「設計者がCAD・CGツールのインターフェースを使いこなすことができれば、ある意味、デジタルツールのほうがフィジカルな感覚を得られるのではないか」と語った。

※1)ファーシド・ムサヴィ(Farshid Moussavi)
 1965年にイランで生まれ。1993年、Alejandro Zaera-PoloとともにロンドンにForeign Office Architects Ltd(foa)を設立。さまざまなコンプレックス設計や企画に対し、統合的で幅広いベソリューションを提供する専門家チームを率いている。

 Foreign Office Architects Ltd(foa)の代表として活躍し、ヨーロッパおよび東アジアで大きな公共プロジェクトの設計や導入を手がけている。建築学の学位を持ち、米国およびヨーロッパで客員評論家として活躍。2002年からウィーンのAcademy of Fine Arts の教授に就任している。

ファーシド・ムサヴィ(Farshid Moussavi)
Foreign Office Architects Ltd(foa)

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